「老人ホームに入れて、ひと安心」
しかし、入居前に退去要件について把握していないと、施設側から突然の退去勧告を受けることになってしまうかもしれません。
突然の退去勧告に慌てることがないように、どのような場合に退去勧告を受けるのか知っておくことが重要です。
この記事では、老人ホームから退去勧告を受ける理由と注意点、やむを得ず退去することになった場合の対処法について解説します。
退去勧告をされる時はどんな時?
退去勧告をされる時はどんな時なのでしょうか?
どの施設でも共通して言える理由は利用料の支払いが滞った場合ですが、実は退去勧告を受ける理由は施設によりさまざまです。
そのため、注意点として入居前に退去要件について施設側から十分に説明を受けておくことが重要です。
ここでは、よくある退去要件を紹介していきます。
入居金や利用料の未払い
通常の住居の賃貸契約と同じく、老人ホームも利用料が払えなくなると退去勧告を受けることになります。
なかには、高額な入居金が必要な施設もあり、毎月の利用料が払えたとしても、入居金が払えなければ入居し続けることはできません。
また、入居の際、ほとんどの施設で保証人や身元引受人を求められますが、支払いが滞るとそちらに督促がいくことになります。
施設が定める支払猶予期間内に支払うことが必要になるため、支払いが難しくなった場合は、早めに施設の生活相談員や施設長、ケアマネージャーに相談することが大切です。
国の減免制度や持ち家住宅の活用などにより、退去を回避できるかもしれません。こちらの記事を参考にしてみてください。
施設によって違う
老人ホームには、さまざまな種類があり、退去要件も同じではありません。
そのため、入居前に「契約書」や「重要事項説明書」に必ず目を通し、わからないことについては納得がいくまで説明を受けましょう。
よくある主な退去要件を4つ紹介します。
①長期間の入院
高齢になると筋力や嚥下機能の低下により、転倒や誤嚥性肺炎などで入院をすることがあります。
入院期間が長期になると、退去勧告を受けることになりますが、この入院期間は施設によって異なります。
3ヶ月という施設もあれば、待機者が多い特別養護老人ホームでは、1ヶ月の入院で退去勧告を受けることもあるようです。
入院期間中であっても施設の利用料を払う必要があるため、入院にかかる費用を合わせると経済的な負担が大きくなります。
また、支払いが困難なために、やむを得ず退去した場合、退院後に再入居できる保障はありません。
②医療依存度の増加
身体機能の低下により、下表のような医療ケアが必要になることがあります。
出典:厚生労働省 介護サービス利用者に対する 医療提供のあり方について
喀痰吸引・経鼻経管栄養については、介護保険法の改正により、平成24年度から研修を修了し認定を受けると介護職でも行えるようになりました。
しかし、求められる医療ケアの中には介護職ではできないものも多く、看護師の配置が必要です。
サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームの中には、看護師の配置義務がないために、医療ケアに対応できない施設があります。
その場合、医療ケアに対応している施設への住み替えが必要です。
介護療養型医療施設や介護医療院では、医療体制が充実しているため安心ですが、医療ケアが必要ない時期から入居することはできません。
③入居者や職員への迷惑行為
認知症の症状の中には、不安な気持ちからくるイライラや感情のコントロールができないために入居者や職員に暴力をふるう暴力的になったり、他人の居室に勝手に入って物を盗んでしまうというような場合があります。だりということがあります。
また、大きな声で奇声をあげることも入居者へストレスや恐怖心を与えてしまいます。
以上のような行動が、ケアの工夫を行っても頻繁に起きてしまうと、入居し続けることは難しいでしょう。
高齢者は環境が変わることをストレスに感じやすいため、できるだけ面会に行き、安心感を与えるよう心がけましょう。
また、家族が施設の職員と情報を共有し早めに対処するなど、職員との信頼関係を築き、施設任せにしないことは重要なポイントです。
④施設の倒産
多くはありませんが、入居している施設の倒産により、退去勧告を受けることがあります。
経営者が変わり施設の運営が継続されても、以前と同じ契約内容とは限りません。
入居している施設が倒産した場合の保障に「保全措置」があります。
この保障については、次の章で詳しく解説していきます。
このように、退去要件について知っておくことは重要です。気になる施設を見つけたら必ず見学に行き、疑問に思うことは納得がいくまで質問しましょう。
こちらの記事では、見学時にチェックしておくべきポイントがわかります。ぜひ参考にしてください。
老人ホーム退去時に注意すること
やむを得ず、老人ホームを退去することになった場合、次の2つの費用について注意しておきましょう。
返済される費用など
老人ホームの中には、入居金が必要な施設があります。
施設で定める償却期間中であれば、未償却分が返ってくる可能性があるため、「契約書」や「重要事項説明書」に記載されている返還金の計算方法を確認してみましょう。
また、入居している施設が倒産した場合の保障には「保全措置」があります。
老人福祉法の改正により、2021年4月1日以降すべての有料老人ホームが保全措置の対象となり義務化されました。
この「保全措置」により、入居費用として使われていない入居一時金の残金が最大500万円まで保障されます。
居室の原状回復の範囲と費用について
通常の住居の賃貸契約と同じく、ほとんどの老人ホームで退去時の「原状回復」を求められます。
ここでいう「原状回復」は、経年による自然劣化や損耗などは当てはまりません。
つまり、故意や過失によるものでなければ、施設から費用を請求されることはないでしょう。
また、身に覚えのない傷などで費用請求されることを避けるために、入居時に傷を見つけた場合は職員に確認してもらうことも大切です。
原状回復の内容や方法については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にしているホームが多いです。
住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について – 国土交通省
退去勧告に強制力はあるのか
退去勧告による強制力の有無については、契約書の退去要件に記載があるかどうかになります。
退去の理由や経緯について、職員に説明を求めましょう。
すぐ出ていかないといけないのか
退去勧告を受けても、すぐに退去しなければいけないわけではありません。
一般的に退去には90日間の猶予を設けており、この猶予期間中に転居先をみつけることになります。
また、なかなか転居先がみつからない場合は、在宅に帰ることを余儀なくされる可能性もあります。
困った時は、ケアマネージャーや入居している施設に転居先探しを協力してもらうとよいでしょう。
納得がいかない場合は専門家に相談
退去理由に納得がいかないからといって退去を拒否すると、裁判に発展することもあります。
費用や時間もかかるうえ、ストレスを抱えることになり負担も大きいでしょう。
まずは「重要事項説明書」に記載されている、退去勧告に関する相談窓口で相談してみましょう。
下記の相談窓口でも対応してもらえます。
- 市役所・区役所等の介護保険課や高齢福祉課
- 都道府県に設置された国民健康保険団体連合会
- 社団法人全国有料老人ホーム協会
まとめ
入居前に「契約書」や「重要事項説明書」に目を通しておくことは重要です。
なかでも、退去要件は最重要ポイントと言えるでしょう。
内容について理解できないことは納得がいくまで説明してもらい、その時になって慌てることがないようにしましょう。
ここでは以下の点について解説しました。
- 退去要件は老人ホームによって違う
- 償却期間中であれば入居金が返ってくる可能性がある
- 退去時に居室の原状回復を求められる
- 一般的に退去には90日間の猶予がある
- 納得がいかない時は相談窓口で相談しよう
高齢者にとって、環境が変わることは大きなストレスとなり、それが原因で認知症が進行してしまうこともあります。
契約の際には、信頼できる家族や知人に同席してもらい、契約内容についてしっかり把握できる環境にしておきましょう。