生活保護でも老人ホームは入れる?その理由と方法を解説

「生活保護を受けていても入れる老人ホームってあるの?」
「将来もらえる年金が少なくて心配。生活保護の申請をしたら老人ホームに入れるかなあ」

厚生労働省が行った「生活保護の被保護者調査」では、令和3年1月分の生活保護受給者に占める高齢者世帯の割合は55.3%でした。

あたりまえの生活を維持することが困難、という状況におちいっている人の半数以上が「高齢者世帯」ということです。

すでに生活保護を受けている方や、老後の介護費用が心配なあなたへ。

ここでは老後を安心して迎えるために、生活保護でも老人ホームに入れる理由と方法について解説していきます。

また、「こんなはずではなかった」と後悔しないための注意点もありますので、老人ホームへ入居を検討する前に参考にしてくださいね。

生活保護を受けていても入居できる老人ホームがある

生活保護を受けていても、入居を受け入れている老人ホームはあります。

まずは、生活保護制度の要点と、老人ホームの現状について解説していきます。

  1. 生活保護制度とは
  2. 第一選択肢は特別養護老人ホーム
  3. 老人ホームの所得層別の入居割合

①生活保護制度とは

生活保護制度は、生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を支援することを目的としています。

生活保護を申請する前に、下記の4点をクリアする必要があります。

  • 預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却などして生活費にあてる
  • 働くことが可能な場合、その能力に応じて働く
  • 年金や手当など、他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用する
  • 親族などから援助を受けることができる場合は、援助を受ける

そのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。

出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html

②第一選択肢は特別養護老人ホーム

介護度が要介護3以上であれば、特別養護老人ホームが第一選択肢になります。

特別養護老人ホームは安価なため人気が高く、すぐに入居することが難しいのですが、申し込み順ではありません。

入居判定は点数制になっており、介護度が高い場合や身寄りがなく介護者がいないなど、緊急度が高いほど点数も高くなります。

「どうせ無理だろう」とあきらめずに申し込んでみましょう。

③老人ホームの所得層別の入居割合

厚生労働省が行った「令和3年度 高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業 報告書」によると、介護を必要とする特定施設では、生活保護受給者が1人以上入所している施設は全体の15%という結果になっています。

反対に、自立度が高い利用者が多いサービス付き高齢者向け住宅では、生活保護受給者が1人以上入所している施設は全体の43.9%、住宅型有料老人ホームでは65.7%でした。

このことから、介護付きの老人ホームへの入居はハードルが高いといえます。

生活保護を受給している入居者がいない(「0人」)施設 生活保護受給者の人数 入居者総数に対する生活保護受給者の割合
特定施設 85.0% 平均 1.2 人 平均 2.6%
サービス付き高齢者向け住宅(非特定施設) 56.1% 平均 2.9 人 平均 10.2%
住宅型有料老人ホーム 34.3% 平均 5.0 人 平均 19.4%

 

つぎに、特定養護老人ホームの入居者を所得層別でみてみましょう。。

下記の図で表している第1段階は生活保護世帯、第2段階と第3段階は住民税非課税世帯、第4段階は世帯内に課税している人がいる世帯(本人または配偶者が住民税非課税)になります。

介護度による差はほぼなく、第3段階までの住民税非課税世帯である低所得者の割合は7割を超えています。

また、特別養護老人ホームの入居条件は原則要介護3以上といわれていますが、要介護1や2であっても可能な場合があるようです。

条件によっては受け入れてもらえる可能性がありますので、あきらめずに相談してみましょう。

 

出典:厚生労働省 介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)

生活保護を受給する高齢者が入居する方法と注意点

 

「生活保護をうけて生活しているけれど、介護が必要となってきた」
「老人ホームで安心して老後の生活を送りたい」

このような状態になったとき、どうすればよいのでしょうか。

ここでは、老人ホームへ入居するまでの方法と注意点について解説していきます。

まずは、お住まいの市区町村にある福祉事務所で生活保護受給の担当をしているケースワーカーに相談し、老人ホームへの入居意思を伝えましょう。

ケースワーカーは多くの生活保護受給者と接しているため、低所得者でも受け入れてくれる施設の情報が豊富です。

こちらの要望を伝えて、あなたの希望に沿った施設を探してもらいましょう。

このとき、希望する老人ホームが現在の住所と異なる市区町村となる場合には「移管」の手続きをする必要があります。

ただし、生活扶助や住宅扶助の上限額は各自治体によって異なります。

転居先の市区町村が定める上限額をオーバーしないことが入居の条件となるため注意しましょう。

生活保護の方でも可能な老人ホームの種類

すべての老人ホームが生活保護受給者を受け入れているわけではありません。

受け入れゼロの施設もあれば、人数制限を設けているところや積極的に受け入れている施設もあります。

ガイドラインは施設によってさまざまなので、気に入った施設が見つかったら、まずは問い合わせてみましょう。

運営 介護度の要件 年齢制限 介護サービス その他条件 生活保護受け入れ
特別養護老人ホーム 公的施設 要介護3以上 65歳以上
介護老人保健施設 公的施設 要介護1以上 65歳以上 自宅復帰への支援を行う(入所期間は3~6ヶ月)
ケアハウス(介護型) 公的施設 要介護1以上 65歳以上
ケアハウス(自立型) 公的施設 家で生活することが困難で家族の援助も難しい場合 60歳以上 原則、健康状態に問題がないこと
介護療養型医療施設 公的施設 要介護1以上で医学的管理が必要な場合 65歳以上 (2024年3月末に廃止)
介護医療院 公的施設 要介護1以上で日常生活を送る中で高度な医療ケアを必要とする場合 65歳以上 (介護療養型医療施設の廃止により新設)
介護付き有料老人ホーム 民間施設 要介護1以上 65歳以上
住宅型有料老人ホーム 民間施設 自立~軽度の介護が必要 60歳以上 別途契約 要介護5まで可能な施設もある
サービス付き高齢者向け住宅 民間施設 自立~軽度の介護が必要 60歳以上 別途契約 要介護5まで可能な施設もある
認知症高齢者グループホーム 民間施設 要支援2以上で認知症の診断を受けている 65歳以上 事業所と同じ市町村に住民票がある

※特定疾病に認定された場合、通常介護保険サービスの対象とならない「40歳以上64歳まで」の人も介護保険の第2号被保険者として介護認定をうけるため対象となります。

生活保護の扶助制度を活用して老人ホームに入居

生活保護の扶助制度を活用して老人ホームに入居した場合、下記費用については国や自治体から補助されます。

対象になるもの 支給範囲 注意点 1ヶ月の上限額
生活扶助 日常生活に必要な費用(食事・被服・光熱費など) 支給範囲内でやりくりする 上限額は自治体にて変動あり ※66300円~77980円
住宅扶助 家賃に関わる費用 支給範囲内でやりくりする 上限額は自治体にて変動あり ※32000円~53700円
介護扶助 介護サービスの費用 介護サービスに関わる費用は全額支給される 保険対象外のサービスや支給限度額を超えたサービスの費用は自己負担となる なし
医療扶助 医療サービスの費用 医療サービスに関わる費用は全額支給される なし
臨時対応 おむつ代 提出された領収書の金額全額または支給金額の上限金額のどちらか安い方が支給される まとめて請求する場合は3ヶ月分まで 20600円

※生活扶助と住宅扶助の上限額については、厚生労働省「生活保護制度の概要などについて」(令和3年4月27日)参照
(高齢者単身世帯68歳にて算出)

生活保護を受けている方が老人ホームに入居する際の「よくある質問」

Q1.生活保護をうけていますが老人ホームに入居しています。
人間関係がうまくいかないため他の施設を探したいのですが、どうしたらいいでしょうか?

A. 基本的には転居できません。
医療処置が必要になり、今の施設では対応できないなどの理由がある場合、認められることがあります。

しかし、職員とそりが合わなかったり、食事が合わなかったり、などの理由で転居は認められません。

また、転居が可能であっても、転居にかかる費用を実費として支払わなければならないなど、現実的に難しいこともあります。

そのため、入居を決める際は、将来を見据えた長い目で決めるようにしましょう。

 

Q2.生活保護制度を活用して老人ホームの入居費用を払った場合、自由に使えるお金はどのくらいありますか?

A.2000円~4000円程度です。

生活保護制度は最低限の生活を保障する制度です。

そのため、自由になるお金は多くはありません。

また、残ったお金も理美容代で使ったり、施設によってはトイレットペーパーも自分で用意しないといけなかったりと、余裕はあまりないでしょう。

介護保険サービスの費用負担の限度額

生活保護制度では、介護保険サービスの費用について介護扶助が適用されるため自己負担はありません。

しかし、「生活扶助」にあたる食事・被服・光熱費などの日常生活で必要なものや、「住宅扶助」にあたる施設の家賃の部分については自治体によって定められた上限額の範囲内に納めなければなりません。

また、おむつを常時必要とする場合は、臨時的な支給としてもらうことができます。

ただし、お住まいの福祉事務所へ申請書、診断書及び領収書の提出が必要になります。

面倒でも、まとめて申請できるのは3ヶ月分までなので注意が必要です。

まとめ

生活保護を受けていても老人ホームに入れる理由と注意点について解説してきました。

  • 生活保護を受けていても入居できる老人ホームがある
  • 生活保護を受給する高齢者が入居する方法と注意点
  • 生活保護の方でも可能な老人ホームの種類
  • 生活保護の扶助制度を活用して老人ホームに入居
  • 生活保護を受けている方が老人ホームに入居する際の「よくある質問」
  • 介護保険サービスの費用負担の限度額

生活保護受給者にとって第一選択肢である特別養護老人ホームは、原則多床室を選択することになっています。

2002年より、国は特養の新築・改築でユニット型(個室タイプ)の整備を推奨してきました。

ユニット型は、入居者が自宅と似た居住環境でなじみの人間関係をつくれることから、認知症のケアにも有効とされているのです。

しかし、費用面では有料老人ホームと変わらないほど高くなり、低所得者には入りづらい状況になってしまいました。

厚生労働省は2011年度から、生活保護受給者がユニット型の特別養護老人ホームに入所できるよう、利用者負担を軽減する事業の対象を拡大しています。

いまだ所得によって制限を受けない状況にはなっていませんが、近い将来、だれもが豊かな老後を送れるようになることを願っています。

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