「認知症だと受け入れてもらえない施設があるらしい。どうしたらいいの」
実家に帰るたびに親のできないことが増えていて、心配になっていませんか?
あるいは、自分自身が日々のこまごましたことに対処できず落ち込んだり、不安になってはいませんか?
認知症は進行する病気です。
「まだ大丈夫!」と思っていても、思わぬできごとに発展することもありますよ。
老人ホームに入居するにはタイミングが大事です。
ここでは、認知症と診断され不安をかかえておられる方の施設探しについて解説していきます。
18歳から64歳で発症するアルツハイマー型認知症「若年性アルツハイマー」についてもふれているので、ご参考にしてくだい。
認知症の方が施設に入れるタイミング
認知症を発症したからといって、すぐに施設入所を検討する人は多くありません。
初期であれば、進行を緩やかにする効果が証明されている飲み薬もあります。
施設側が入居を受け入れてくれる年齢や介護度といった条件はあるのでしょうか?
わかりやすく施設別で紹介します。
年齢 | 介護度 | その他 | 若年性アルツハイマー受け入れ(※) | |
介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム/特養) |
65歳以上 | 要介護3以上 | △ | |
介護老人保健施設 (老健) |
65歳以上 | 要介護1以上 | 自宅復帰のためのリハビリを行う (原則、入所期間は3~6ヶ月) |
△ |
介護療養型医療施設 ※2024年3月末に廃止 (介護医療院へ移行) |
65歳以上 | 要介護1以上 かつ、日常生活を送るのに高度な医療ケアが必要 |
△ | |
ケアハウス(自立型) | 60歳以上 | 家で生活することが難しい かつ、家族の援助も得られない |
原則、健康状態に問題がないこと | × |
ケアハウス(介護型) | 65歳以上 | 要介護1以上 | △ | |
介護付き有料老人ホーム | 65歳以上 | 要介護1以上 | △ | |
住宅型有料老人ホーム | 60歳以上 | 自立から軽度の介護が必要 | 要介護5まで可能な施設もある | △ |
サービス付き高齢者住宅 (サ高住) |
60歳以上 | 自立から軽度の介護が必要 | 要介護5まで可能な施設もある | △ |
認知症対応型共同生活介護 (認知症グループホーム) |
65歳以上 | 要支援2以上 かつ、認知症の診断あり |
地域密着型サービスのため、事業所と同じ市町村に住民票があることが条件 | △ |
※「初老期における認知症」は介護保険法で定めている特定疾病に含まれます。この場合、40歳から64歳の人が対象となります。
全ての施設が受け入れているわけではないので、受け入れ可能か相談してみましょう。
下記は、久喜市(埼玉県)が2020年に行った「高齢者生活実態調査<施設入所者>の結果 」です。
在宅での支援を受けて生活をしていたのに、自宅での生活が困難になる。
つまり、「もう限界だ」と感じた理由はなんだったのでしょうか?
【問9-1 居宅介護サービスを利用しながら、自宅での生活が続けられなかった主な理由は何ですか(3つまで○)】
出典:久喜市 第4章 高齢者生活実態調査<施設入所者>の結果
このアンケートからわかることは、施設入所者の大半が、「本人が入所するタイミングを選んだ」のではなく、「介護者の限界によってその日がきた」ということです。
施設に入所している方の平均年齢は80歳から90歳です。
下の統計から80歳から84歳で認知症になった方は全体の21.8%、85歳から89歳で41.4%、90歳から94歳で61.0%、95歳以上で79.5%となっています。
出典:厚生労働省 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金) 認知症年齢別有病率の推移等について
70歳から74歳までの発症率は4.1%なので、70歳くらいから施設を検討しはじめるのが望ましいでしょう。
その頃から家族で老後について話し合えればベストです。
認知症が進行してからでは適切な判断ができなくなります。
そのためには、ふだんから家族で交流をもち、本人が望む老後について話し合える雰囲気づくりも必要です。
まだ判断能力もあり、施設見学に行く元気があるうちに動きだしましょう。
認知症の方が入居可能な施設とその特徴
ここでは、認知症の方が入居可能な代表的な4つの施設と、その特徴について解説していきます。
- 特別養護老人ホーム
- 認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
- 介護付き有料老人ホーム
- サービス付き高齢者住宅
①特別養護老人ホーム
2002年より、国は特別養護老人ホームの新築・改築の際、個室タイプのユニット型にすることを推奨しています。
ユニット型は、入居者が自宅と似た居住環境でなじみの人間関係をつくれることから、認知症のケアにも有効といわれています。
しかしユニット型は割高になるため、費用面で安いからと特別養護老人ホームを検討した場合、有料老人ホームとあまり変わらないと感じるかもしれません。
②認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
この施設の入居対象は認知症の方のみです。
1事業所あたり、1又は2の共同生活住居(ユニット)を運営しており、1ユニットの定員は、5人以上9人以下となっています。
グループホームは地域密着型サービスのため、事業所と同じ市町村に住民票があることが条件になっています。
お祭りや小学校の運動会など、地域の人との交流もあり、住み慣れた町で安心して生活できることもメリットです。
また、認知症に特化した施設なので、スタッフも認知症の特性や対応方法の知識が豊富なため、安心です。
ここでは、調理や洗濯など日常の家事をスタッフと共に行うことで認知症の症状を緩和することにつながります。
③介護付き有料老人ホーム
有料老人ホームは、独自の特色を打ちだしているところが多いため、サービスが充実しています。
レクリエーションや趣味を楽しめたり、人員配置も手厚くなっていたりと、費用面では割高になることがデメリットです。
しかし、待機期間が比較的短いことや、重度になっても看取りまでしてくれる施設もあるので、確認してみましょう。
④サービス付き高齢者住宅
原則要介護3以上といった条件を設けている特別養護老人ホームと違い、自立していても入居できることがメリットです。
認知症は環境の変化への対応が難しいため、早いうちから入居して環境に慣れておくことも大切です。
しかし、外部委託の介護サービスになるため、将来介護度が上がったときに割高になり、費用の負担が大きくなります。
40歳未満の若年性アルツハイマーの場合
若年性アルツハイマーでも40歳未満の場合、介護保険のサービスを受けることができません。
そのため、その場合は障害者福祉サービスを利用することになります。
また、以下のように、さまざまな相談窓口も設置されています。
- 全国若年性認知症支援センター
- 若年性認知症支援コーディネーター
- 若年認知症サポートセンター
- 地域包括支援センター
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会
要介護度の要件を満たしていても、認知症であることが理由で入居を断られることがあります。
気に入った施設が見つかったら、あきらめずに、まずは相談してみましょう。
家族が介護に対する理解があったり、施設側の呼び出しなどにも協力的であることをアピールすることで、引き受けてもらえることがあるかもしれません。
介護施設を探すポイントと注意点
認知症患者の末期は感情があらわれにくくなるため、話しかけても答えないなど、無表情になり寝たきり状態になっていきます。
今の状態をみて施設を探すのではなく、先を見据えた施設選びが重要です。
最近では看取りまでしてくれる施設も増えているので、寝たきりになって施設から退去を迫られるというようなことがないように注意が必要です。
下図は、老人ホームの退去理由をあらわしています。
入院後死亡(赤色)、施設内死亡(黄緑色)を合わせると
介護付き有料老人ホームで52.9%
特別養護老人ホームで70.4%
認知症グループホームで39.3%
という結果になり、看取りまでみてもらえる割合がかなり高いことがわかります。
出典:厚生労働省 第179回(R2.7.8)社保審-介護給付費分科会 特定施設入居者生活介護
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは
認知症を発症すると、本人も家族も「これからどうなっていくんだろう」「最期はどうなるの?」と不安になります。
しかし、その恐怖心にばかり目を向けていては、最期の時を迎えた時に後悔することになります。
大切なことは、あなたが「最期はどうしたいのか」ということです。
「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」は愛称を人生会議と呼びます。
これから受ける医療やケアについて、その当事者が自分の考えを家族や医療者と話し合って「私の心づもり」として文書に残すことで、その人の希望や思いが医療やケアに反映される。その手順のことをいいます。
あなたが自分の考えを伝えられなくなった場合に備えて、前もって受ける医療に対する希望を、家族や医師に伝えておくことは重要なことです。
○ステップ1:希望や思いについて考えましょう
○ステップ2:健康について学び、考えましょう
○ステップ3:あなたの代わりに伝えてくれる人を選びましょう
○ステップ4:希望や思いについて話し合いましょう
○ステップ5:考えを「私の心づもり」に書きましょう
※テンプレートhttps://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/acp/index.html「ACPの手引き」より
入居前の確認事項
ここでは、入居前に確認しておくべき点について解説します。
入居後に後悔することがないように、しっかりチェックしておきましょう。
契約書に書いてある契約内容の確認
高齢になると文字を見ることがおっくうになるため、「こことここにサインして」と言われるままに契約してしまうことがあるかもしれません。
その場合、あとで「聞いていない」と言っても取り合ってもらえません。
たとえば、退去時に経年劣化であっても壁紙の張り替えなどを要求されるなど、思わぬトラブルが起こる可能性があるので、契約書は家族にも確認してもらいましょう。
公共交通機関を使う場合の利便性
家族も高齢になると車を運転しなくなり、公共交通機関を使って面会に来るようになります。
駅やバス停が遠かったり、乗り換えが多かったりすると、月に2回行くところが1回がやっとということになることもあるでしょう。
しかし、利便性の良い施設は、その分利用料が高くなります。
長い目でみてどちらを優先するべきか検討しましょう。
看取りは可能か
介護度が上がったときに、住み慣れた施設を退去しなければならないということは、本人にとって辛いことです。
高齢になって環境を変えるというのは、精神面では不安があったり、身体的には体力を消耗したりします。
できることなら、最期までお世話をしてもらえる施設が望ましいでしょう。
見学する際の見るポイントや注意点
気に入った施設が見つかったら、かならず事前に見学をしましょう。
その際、できれば昼食時に見学することをおすすめします。
スタッフが入居者へどのように関わっているかがわかりやすいからです。
見学時にチェックしておきたいポイントは下記の3つになります。
- トイレやお風呂への動線が長い
- スタッフが笑顔で仕事しているか
- 入所者の身だしなみはきちんとしているか
①トイレやお風呂への動線が長い
トイレやお風呂場までの導線が長いと、スタッフの負担が増えます。
たとえば、トイレの介助も遠くにあることで、3人行けるところが1人しか行けないということにもなるのです。
効率が悪いために待たされる方も不機嫌になり、お互いに気持ちの余裕がなくなってしまいます。
②スタッフが笑顔で仕事しているか
認知症の方は判断能力や理解力の低下により、不安な気持ちをかかえていることがあります。
同じことを何度も聞いてくる入居者へ、スタッフが笑顔で答えることによって、その瞬間は安心感を感じることができます。
「さっき言ったでしょ」と言われても、本人は覚えていないので、いつまでも不安が解消されず、ますます不穏になってしまいます。
③入所者の身だしなみはきちんとしているか
入居者の髪がひどく乱れていたり、服が汚れていたりするのは、スタッフに余裕がないからです。
そのような時間も割けないほど忙しいのだとしたら、ほかの部分でもていねいな関わりができていないでしょう。
身だしなみを整えることは大切です。
「化粧療法」という高齢者や認知症の方を対象にした治療法があり、美しくなった自分を見ることで脳が活性化し、それにより認知機能の低下が抑えられ認知症予防としても効果があるそうです。
身だしなみを整えることは、その人の尊厳を守ることにもつながります。
施設見学は、できれば本人と行くことが望ましいです。
拒否がある場合は無理に連れてくることはできませんが、「家族に勝手に決められた施設」と思わせては遺恨が残るかもしれません。
どのようなところかを見ることで心の準備もでき、「一緒に決めた施設」であれば拒否感も和らぐでしょう。
老人ホームや介護施設に入れる年齢とは
老人ホームや介護施設は介護サービスを使うため、介護サービスを使うことができる年齢であることが条件になります。
そのため、原則65歳以上が入居条件である施設が多いです。
要介護認定されていない自立の方でも入居が可能な「住宅型有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者住宅」の場合は、原則60歳以上からとなっています。
これは、利用料に介護サービスが含まれているか、いないかの違いになります。
しかし、介護保険法施行令第2条で定めている「特定疾病」があり、この疾病を原因とする介護が必要と認定された場合は、40歳から介護保険が使えます。
全ての施設が、特定疾病がある方を受け入れているわけではないので、入居希望の際には確認が必要ですが、40歳から入居できる場合もあります。
まとめ
ここまで、認知症の方でも入居可能な介護施設とその特徴について解説してきました。
- 認知症の方が施設に入れるタイミング
- 認知症の方が入居可能な施設とその特徴
- 介護施設を探すポイントと注意点
- 入居前の確認事項
- 見学する際の見るポイントや注意点
- 老人ホームや介護施設に入れる年齢
認知症と診断を受け、症状が進行していくなかで、本人はもちろんのこと家族も不安をかかえていることでしょう。
しかし、その不安にとらわれ、恐怖心にばかり気をとられていては、大切なことを見失ってしまいます。
認知症にかぎらず、人はそれぞれ人生観や思いに基づく「人生設計」をもって将来のことを考えているのではないでしょうか。
どのような最期をむかえたいのか?
「あのとき聞いておけば良かった」と大切な人が後悔しないように、いまから話し合い、穏やかに老後を過ごしていただきたいと願っています。