老人ホームの看取り介護とは?

「老人ホームでの看取りは安心できるものなのか」
「看取りとは、どのようなケアをしてもらえるのか」

厚生労働省の「平成25年人口動態統計」では、日本の死亡者数は年間127万人とされ、そのうちの約76%が病院で亡くなっています。

「畳の上で死にたい」

無機質な病院で「白い天井を見ながら、最期を迎えるのはイヤだ」と思う人は少なくありません。

この記事では、老人ホームの看取り介護について詳しく解説していきます。

”人生の最期の時”を迎えたときに「この老人ホームを選んで良かった」と思えるように、老人ホーム選びの参考にもしていただけると幸いです。

看取りとは何か

「看取り」とは、症状の改善が見込めず、死を避けられない状態の人に対して、無理な延命治療を行わず、人生の終焉を迎えるまで尊厳を保つためのケアのことです。

死ぬかもしれない恐怖、ひとりぼっちで死に向き合う心細さ。
身の置き場のないだるさや痛み。

医師、看護師、介護士が連携して、このような苦痛を取り除きながら、老人ホームを生活の場として、人生の終末期のケアをおこなうことが「看取り」です。

看取り介護とターミナルケアは違う

「看取り介護」と並び「終末期医療(ターミナルケア)」と、いわれるものがあります。

「介護」と「医療」という表記がされている通り、医療ケアがあるかないかの違いです。

どちらも延命治療の目的で医療ケアを行うことはありません。

身体的な苦痛を伴う場合、それを軽減する目的での医療ケアになります。

この終末期におけるケアには、以下の4つがあります。

対象 目的 時期
緩和ケア 生命を脅かす疾患に羅漢した人※
(主にがん)
苦痛を予防し和らげる(抗がん剤などの積極的治療含む) 生命を脅かす疾患に羅漢した時
ホスピスケア 余命の短い人※
(主にがん)
心身ともに安楽に過ごす(緩和ケア) 余命がある程度推測できる段階
ターミナルケア

 

疾病や傷害により余命わずかの人※
認知症や老衰等により終末期を迎えた人※
穏やかに過ごす(延命治療は行わない)
エンド・オブ・ライフケア

 

死について考えるすべての人(終末期だけではない) 最善の生を生きることができるよう支援する 死について考えるすべての期間

※本人の家族へのケアも対象

看取り介護の内容とは

わずかに寿命を延ばすことよりも本人の望みを叶える

看取り介護は、苦痛をともなうような無理なケアは行いません。

食欲が低下してくると、身体が最期を迎える準備をしていると捉えます。

この時期になると、残念ながら点滴をおこなっても回復は見込めません。

自然な身体の変化に逆らわず、「食べたいものを」「食べたいときに」「食べたいだけ」援助します。

次第に水分の摂取も減っていきますが、点滴などで無理に体に水分を入れてしまうと、浮腫や痰の量が増え、却って苦痛を与えてしまうことになります。

反対に、通常なら入浴ができるような体力がないからと中止する身体状況であっても、本人が希望して医師の了解があれば入浴を行うこともあります。

無理に延命するのではなく、本人の望むことに、できるだけ寄り添うことを大切にしています。

【看取り期の援助】

①食欲低下の場合、ご入所者の嗜好に合わせます。
②経口摂取(飲水・食事)ができなくなったら、無理な介助はせず、可能な限り時間をかけ、ご入所者の希望に沿う援助を行います。
③スキンシップ、コミュニケーションによる継続的な見守りをします。
④室温、採光、換気を調整し、ベッドサイドの清潔保持に配慮します。
⑤医師と相談して過剰な処置は行いません。
⑥苦痛の表情にはマッサージ、体位変換など適切に対応します。また、医師と相談し、痛みや不快な症状、不安の軽減等、つらさが少ないように症状を和らげるサポート(緩和ケア)を行います。
⑦手足の保温に努め、可能な限り入浴も行います。
⑧ご入所者の負担を軽減するために、可能な限り複数で清拭、更衣、排泄介助を行います。

公益社団法人全国老人福祉施設協議会 看取り介護指針・説明支援ツール【平成27年度介護報酬改定対応版】より抜粋

出典:公益社団法人全国老人福祉施設協議会 看取り介護指針・説明支援ツール【平成27年度介護報酬改定対応版】

意識が殆どない状態であっても、聴覚と触覚は最後まで残るといわれています。

上のイラストのように、好きだった音楽を流す、ベッドサイドでお話しをする、マッサージや手を握るなど、孤独を感じさせないことで安心感を与えることができます。

家族へのケア

看取り介護には、家族へのケアも含まれます。

下表は、公益社団法人全国老人福祉施設協議会が発行している「看取り介護指針・説明支援ツール【平成27年度介護報酬改定対応版】」を参考に看取り介護の流れを説明したものです。

本人 家族
適応期
(入所)
・施設の看取り介護指針の説明
・急変時、終末期の情報提供、意思確認
・キーパーソンの確認
適応期
(1か月後)
・施設の医療提供体制の再説明
・施設での暮らしに対する希望など確認
・急変時、終末期の対応の確認
・本人の「死の迎え方」について家族の考えや気持ちの確認
・急変時の対応と連絡方法の確認
安定期(半年後)
(定期的なケアプラン更新時期)
・定期的に繰り返し意向を確認
・自然死と延命治療、病院での治療と施設の暮らしについて考えてもらう
・施設の看取り介護指針の説明
・自然死と延命治療、病院での治療と施設の暮らしについて考えてもらう
不安定・低下期
(衰弱傾向の出現)
・医師から病態の説明
・その後の経過予測の説明
・ケアプラン変更、食事内容など変更
・医師の所見について理解を確認しながら説明
・家族の意向の再確認
不安定・低下期
(衰弱の進行)
・医師から病態の説明
・その後の経過予測の説明
・栄養士と連携して食事形態の検討
・その人らしい生活空間に配慮した療養環境をつくる(音楽を流す、季節の花を飾る、香りなど)
・医師の所見について理解を確認しながら説明
・家族の意向の再確認
・食べたい物、好きな物の持ち込み依頼
・こまめに心身状況などの情報提供と情報共有を行う
看取り期(回復が望めない状態) ・医師の診断と想定される経過や状態についての具体的な説明
・看取り介護計画書を他職種で協同して作成、適宜見直しを行う
・施設でできることの説明
・終末期の対応の再確認
・医師の診断と想定される経過や状態についての具体的な説明
・施設でできることの説明
・終末期の対応の再確認
・会わせておいた方がいい人に早めに知らせて会ってもらう
看取り期
(ご逝去間近)
・医師の診断と想定される経過や状態についての具体的な説明
・詳細な日々の様子の報告、家族の心の揺れなどへの援助
・ご逝去時の連絡方法、その後の対応について確認
・最期に着せたい服があれば持参してもらう
看取り
(ご逝去)
・グリーフケア(心理的支援)と
諸手続きの支援
・家族だけで過ごせる空間を準備する
・死後の処置(エンゼルケア)を行うことの説明し、希望があれば一緒に清拭や化粧を行う
看取り後 ・グリーフケア(心理的支援)と
諸手続きの支援

ここでは、段階が進むごとに”意向の再確認”が行われます。

「延命治療をするのか」
「最期まで老人ホームで過ごしたいのか」

「いつか死ぬかもしれない」と漠然と考えることと「死を目前にした時」に感じることでは差異が生まれることがあります。

家族間では、このように死に直結するデリケートな話をすることは容易ではありません。

「こんな話をしたら傷つけてしまうのではないか」というような気持ちが、本音を伝えることの邪魔をしてしまうのです。

このような場面で、第三者である施設の職員に間に入ってもらえることは、最大のメリットとも言えるでしょう。

看取り介護ができる施設

高齢化社会になり、看取り介護に対する社会のニーズは高く、介護報酬による「看取り介護加算」を設けるなど、国も推進しているところです。

しかし、以下のような理由で「看取り介護加算」の対象となる基準に達していない施設もあります。

  • 求人しても人が来ないため職員の配置がむずかしい。
  • ギリギリの人数で仕事を回しているため、研修をする時間がとれない。
  • そもそも施設の建物が古く、個室の数が少ないために施設基準を満たせない。
  • 24時間対応してくれる医師や看護師の確保ができない。

このように課題は多いですが、積極的に取り組んでいる施設もあります。

「看取り介護加算」の基準に達していないために、加算の対象とならなくても看取りを行っているのです。

ただし、看取りに同意していても、医師が「治療が必要」と判断した場合は病院へ搬送されます。

下表から、施設を退去した理由と、その割合を見てみましょう。

病院で亡くなられた方の割合は介護付き有料老人ホームでは19.9%、特別養護老人ホームでは24.9%、認知症グループホームでは27.2%。

入院後に亡くなられた方の割合と施設内で亡くなられた方の割合を合わせると、介護付き有料老人ホームでは52.9%、特別養護老人ホームでは70.4%、認知症グループホームでは39.3%です。

つまり、入所者の契約終了の理由が「死亡退去」である割合は、特別養護老人ホームでは7割、介護付き有料老人ホームでも5割を超えています。

この割合をみると、老人ホームは「終の棲家」と言えるのではないでしょうか。

終末期に入ってから看取りが可能な施設を探すことは難しく、安心して最期を迎えるためには、住み慣れた場所で気心の知れたスタッフに囲まれていることが重要です。

入所を決める前に、看取りに対応しているか確認しておくと良いでしょう。

看取り介護の加算について

平成18年4月の介護報酬改定において「重度化対応加算」「看取り介護加算」が創設されました。

特別養護老人ホームでは、施設における看取りの体制整備と看取り介護の促進にむけた取り組みが行われ、約7割の施設で看取り介護が実践されています。

「看取り介護指針・説明支援ツール【平成27年度介護報酬改定対応版】」を参考に、加算要件について、それぞれ解説していきます。

加算対象期間

以下の期間において、死亡月にそれぞれ加算されます。

ただし、退所した日の翌日から死亡日までの間は算定されません。

つまり、亡くなる前に在宅へ戻ったり、医療機関に入院したりした後で、そのまま亡くなった場合でも算定の対象にはなりますが、施設において直接看取り介護を行っていない期間は算定できません。

従って、退所した日の翌日から死亡日までの期間が30日以上あった場合、算定対象にはなりません。

  • 死亡日以前4日以上30日以下・・・1日につき144単位
  • 死亡日の前日および前々日 ・・・1日につき680単位
  • 死亡日          ・・・1280単位

施設基準

  1. 常勤看護師を1人以上配置し、当該施設および病院などの看護職員との連携により、24時間連絡できる体制を確保していること。
  2. 看取りに関する指針を定め、入所時に入所者や家族に内容を説明し同意を得ていること。
  3. 医師、看護職員、介護職員、介護支援専門員その他の職種が協議のうえ、当該施設における看取りの実績などを踏まえて、適宜看取りに関する指針の見直しを行うこと。
  4. 看取りに関する職員研修を行うこと。
  5. 看取りを行う際に、個室または静養室が利用できるよう配慮すること。

対象者

以下の①~③すべてを満たしている場合

  1. 一般に認められている医学的知見に基づき、医師から回復の見込みがないと診断された方
  2. 医師、看護職員、介護支援専門員その他の職種が共同で作成した介護計画書について、入所者または家族が説明をうけ、同意している方。
  3. 看取りに関する指針に基づき、入所者の状態変化や家族の求めなどに応じて、随時説明をうけ、同意している方。

看取り介護は本人の意思を大切にしよう

”自分の最期”を自分で決める

看取り介護において、本人の意志を大切にすることは、とても重要です。

「自分の最期を自分で決める」ことは、全ての人に与えられた権利であり、願いではないでしょうか。

しかし、元気なうちに「自分の死」に関わることを考えたり、家族と話をすることを多くの人は避けています。

その結果、意思の疎通ができなくなった後で、家族が決めることが少なくありません。

意に沿わない延命治療や、やりたかったこと、会いたかった人に会えなかったということもあるでしょう。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)「人生会議」という取り組みがあります。

こちらは厚生労働省が作成した動画です。ご覧になって「自分で自分の最期を決める」ことについて考えるきっかけにしてくださいね。
http://人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング) 国民向け普及・啓発事業 ~人生会議について考えるきっかけをつくるために~ Vol.3

介護離職の実情

下表は介護離職をした人に行ったアンケートです。

結果は、離職をしたことで負担が増したと答えた人が多数いました。

役職についている人や働き盛りが多い世代であるため、介護を終えた時、再就職も難しく、経済的にも負担が増えることになってしまいます。

また、介護休暇などの両立支援制度があっても、取得が難しい職場もあることは否めません。

ひとりで悩んで決断する前に、まずは職場の上司やケアマネージャーに相談することをおすすめします。

出典:厚生労働省 令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 報告書

まとめ

私たちは、「死」を避けることはできませんが、「死」を意識して過ごしている人は多くはないでしょう。

人生の最期を”どこ”で、また”どのように”迎えたいか。

老人ホームには身寄りのない人も入所しています。

一方で、家族がいても遠方にいたり、仕事が忙しくてなかなか会いに来ることができない場合もあるでしょう。

最期の親孝行と介護離職をする人もいるかもしれません。

今回の記事では、老人ホームでの看取りを推進する国の取り組みや、施設側での取り組みについて紹介しました。

老人ホームは”終の棲家”と言える時代になりました。

誰もが穏やかな最期を過ごすことができますように願っています。

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