老人ホームへ入居時は住民票を移す必要がある?その理由とポイントを徹底解説

「自宅があっても施設に入居したら住民票を移す必要がある?」
「住民票を移したら保険料が高くなる?」

住民票の移動によってメリット・デメリットがあります。

ここでは、住民票を移す際のポイントについて徹底解説していきます。

「もっと調べておけばよかった」と、後悔することがないように参考にしてくださいね。

老人ホーム入居時は住民票を移す必要あり?

 

老人ホームへ入居が決まった場合、基本的に住民票を移す必要がありますが、一部例外を除いて、住民票の移動をしない選択も可能です。

住民票の役割とは

住民票には氏名、生年月日、性別、住所などが記載されています。

住民票を編成したものを「住民基本台帳」といい、これは住民に関する事務処理の基礎となるものです。

居住している市区町村により、住民の居住関係を公証するとともに、以下に掲げる事務処理のために利用されています。

  • 選挙人名簿への登録
  • 国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険、国民年金の被保険者の資格の確認
  • 児童手当の受給資格の確認
  • 学齢簿の作成
  • 生活保護及び予防接種に関する事務
  • 印鑑登録に関する事務

住民票の異動届の出し方

市区町村の役所への届出方法は下表の流れになります。

  1. 前の居住地で住民異動届(転出届)を行う。
  2. 「転出証明書」が発行される。
  3. 転居先で、②の「転出証明書」を提出し、住民異動届(転入届)を行う。

 

出典:総務省 住民票及び戸籍の附票等 について

(転居届)
第二十三条 転居(一の市町村の区域内において住所を変更することをいう。以下この条において同じ。)をした者は、転居をした日から十四日以内に、次に掲げる事項を市町村長に届け出なければならない。

(転出届)
第二十四条 転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。

昭和四十二年法律第八十一号住民基本台帳法

一般的な転居の場合、14日以内の転居届の手続きや、転出の予定日を届け出る義務があります。

しかし、老人ホームへ入居する場合、住民票を移すことが義務ではないため、手続きを急ぐ必要はありません。(一部例外有り)

しかし、住民票を移すことによるメリット・デメリットに関しては知っておいた方がいいでしょう。

老人ホームに住民票を移すメリット・デメリット

住民票を移すメリット

  1. 郵便物が入居施設へ届く
  2. 今まで通りのサービスが受けられる
  3. 介護保険料が安くなる場合がある

①郵便物が入居施設へ届く

すべての郵便物が入居している施設に届くため、重要な書類や手紙などの確認をスムーズに行うことができます。

家族が郵便物を自宅へ取りに行く、施設に届けるといった手間もかからなくなります。

②今まで通りのサービスが受けられる

各市町村には、その地域に合わせた独特なサービスがあります。

たとえば、愛知県飛鳥村では、地域社会の発展向上に貢献された長寿者に対して、お祝いとして「長寿奉祝金」を支給しています。

その支給額は、満90歳で20万円、満95歳で50万円、満100歳では100万円ももらえるそうです。

このようなサービスも、住民票を移動してしまうと対象外となってしまうので注意が必要です。

現住所の自治体と転居先の市町村のホームページで、どんなサービスがあるか調べてみましょう。

③介護保険料が安くなる場合がある

介護保険制度は地域保険であり、市町村が保険者として制度を実施しています。

そのため、65歳以上の第1号被保険者が納める介護保険料も、市町村によって変わります。

介護保険料は、市町村が3年ごとに介護保険事業計画を策定し、それぞれの地域における3年間の保険給付費の見込みに基づき、具体的な額を定めています。

現住所の自治体と転居先の自治体のどちらがお得か、それぞれの介護保険料を比較してみましょう。

下表は平成15年4月1日現在で、厚生労働省が全国の地域別介護保険料を公表しているものから抜粋しました。

全国で北海道の鶴居村が最も高く、山梨県の秋山村が最も安い自治体になります。

その差を年額で見ると、約5万円もの開きがあります。

都道府県名 保険者名 平成15~17年度の条例上の保険料基準額(年額) 左記の数値÷12
(月額相当)
第1号被保険者一人
当たり保険給付額
北海道 鶴居村 71,300 5,942 28,689
北海道 音別町 30,500 2,542 11,421
山梨県 市川大門町 47,570 3,964 21,862
山梨県 秋山村 21,400 1,783 8,964

住民票を移すデメリット

  1. 郵便物が施設職員の目に触れる
  2. 元の自治体と同じサービスを受けられない
  3. 介護保険料が高くなる場合がある(※対処法あり)

①郵便物が施設職員の目に触れる

住民票を入居施設へ移動すると、すべての郵便物が施設へ届きます。

そのため、施設職員を経由し郵便物を受け取ることになります。

職員が郵便物を勝手に開封し、中身を確認することは基本ありませんが、差出人等は目に触れることとなります。

②元の自治体と同じサービスを受けられない

当たり前だと思っているサービスが、実は元の自治体独自のサービスである場合もあります。

ケアマネージャーや役所に問い合わせたり、インターネットで市町村のホームページを調べてサービスを確認し、どちらがお得か比較検討しましょう。

③介護保険料が高くなる可能性がある

介護保険制度は地域保険であり、市町村が保険者として制度を実施しているため、転居先の自治体の方が介護保険料が高い場合、デメリットになります。

しかし、「住居地特例制度」を利用することもできます。

住所地特例制度についても理解しておこう

介護保険は地域保険であるため、住民票のある市町村が保険者となるのが原則です。

しかし、その場合、介護保険施設等が所在する市町村に給付費の負担が偏ってしまい、施設等の整備が円滑に進まない恐れがあります。

そのため、特例として、施設に入所する場合には、住民票を移しても、移す前の市町村が引き続き保険者となる仕組みが設けられています。

この仕組みを「住所地特例制度」といいます。

対象施設間を移動した場合にも、元の保険者が引き継がれます。

対象施設以外に住所を移した場合、その住所地がある自治体が保険者に変わることになります。

厚生労働省が公表している、平成24年から平成29年までの「住所地特例対象の被保険者数の推移」では、この制度の利用者が毎年増加しています。

平成24年で0.37%、平成29年では0.46%と、かなり少なく感じられるかもしれませんが、人数でいうと160,423人となります。

ただし、この制度を受けるためには、対象となる施設に入所していることが条件になるため注意が必要です。

出典:厚生労働省 住所地特例 – <参考資料

住所地特例制度が利用できる施設は限られる

「住所地特例制度」はすべての施設で利用できるわけではありません。

住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などに入居して、外部契約する地域密着型の介護サービスも対象外になります。

ただし、市町村間で同意が得られるのであれば、対象でない施設やサービスであっても、基本的に「区域外指定制度」により対応が可能です。

条件は地域によって異なりますが、厳しい基準となっており、条件については市町村のホームページでも調べることができます。

対象となる施設と対象外の施設および介護サービスは、下表を参考にしてください。

対象になる施設 対象でない施設(外部による介護サービス)
特別養護老人ホーム 地域密着型特別養護老人ホーム
介護老人保健施設 認知症グループホーム
介護療養型医療施設 地域密着型特定施設入居者生活介護
軽費老人ホーム(ケアハウス) 小規模多機能型居宅介護
養護老人ホーム 認知症デイサービス
介護付き有料老人ホーム 地域密着型通所介護
住宅型有料老人ホーム 夜間対応型訪問介護
サービス付き高齢者向け住宅
(※有料老人ホームに該当する場合)
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
看護小規模多機能型居宅介護(総合型サービス)

対象施設の範囲が拡大する可能性

住所地特例制度の対象施設の範囲は、制度が創設された当時は介護保険施設(特養、老健、介護療養病床)のみでした。

しかし、平成17年より制度改正を重ね、令和元年11月14日現在では範囲が拡大されて特定施設(有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)も対象になりました。

特定施設とは、看護師や介護士、生活相談員などの適切な人員配置ができており、設備においても居室の広さや浴室・トイレなど、入居者に配慮した設備の基準をクリアした施設です。

それぞれの人員基準や設備基準は、国が基準を決めています。

「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日閣議決定)のなかで、「住所地特例制度の適用実態を把握するとともに、高齢者の移住促進の観点も踏まえ、必要な措置を検討する」との記述がありました。

そこでは、認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)へ入居する事例の検討が行われています。

住民票がない地域の「認知症グループホーム」へ入居するには

地域密着型サービスの事業所指定は、事業所が所在する市町村が行います。

認知症の特性として、大きな環境の変化は病気の進行に影響を与えるため望ましくありません。

そのため、認知症グループホームを地域密着型の施設に指定することは、大きな意味があります。

この観点からみると、他市町村からの入居受け入れについては消極的になるでしょう。

しかし、すべての市町村に認知症グループホームがあるわけではありません。

また、1つの共同生活住居の利用者は5〜9人と少人数です。

現住所に認知症グループホームがない場合、特例として「区域外指定制度」により受け入れてもらえる可能性があります。

施設のある市町村に親戚がいる場合、いったん親戚の家に住民票を移動して、市町村が定める一定期間が過ぎてから入居する方法もあります。

下表は「住所地特例制度」と「地域密着型サービス」のさまざまな事例になります。

出典:厚生労働省 住所地特例 – <参考資料

転入14日以内に受給資格証明書を提出しよう

受給資格証明書とは、転出する時点での要介護状態区分や認定有効期間などを明記した「要介護認定または要支援認定を受けていた」という証明書です。

要介護認定または要支援認定を受けている被保険者が、現在住んでいるところから、他の市区町村へ転居する際に交付されます。

転入先の市区町村に転入日から14日以内に提出すれば、認定調査・主治医意見書に基づく介護認定審査会による審査判定を経ることなく、転入前の認定内容が引継がれます。

この提出の期限である14日を過ぎると、新たに介護認定の審査・判定をしなければなりません。

そのため、認定されるまでの空白の期間は、介護サービスを受けることができなくなる可能性があります。

平成29年11月13日から、国や地方公共団体などの行政機関の間で、マイナンバーによる情報連携の本格運用がはじまりました。

これにより、マイナンバー法に規定された行政手続きにおいて、必要な情報がほかの行政機関から取得できるようになるため、これまで提出する必要があった住民票の写しや課税証明書などの添付書類の一部が省略できるようになりました。

受給資格証明書についても発行しない市町村があるようですが、届け出は14日以内に必ず行いましょう。

まとめ

老人ホームへ入居する際に、住民票を移す必要があるのか?
その理由とポイントについて解説してきました。

老人ホームへ入居が決まった場合、基本的に住民票を移す必要がありますが、必ずしも義務ではありません。

  • 老人ホームに住民票を移すメリット・デメリットとは
  • 「住所地特例制度」を活用して介護保険料をお得に
  • 転入14日以内に提出しなければならない「受給資格証明書」について

これらのポイントをおさえておけば大丈夫!

住民票を移すべきか比較検討して、入居する方にとってベストな選択をしてくださいね。

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