老人ホームの利用料は、内容により医療費控除の対象になる事をご存じですか?
節税に繋がり、費用の負担も軽減になれば、入居しているご本人、その家族にとってもメリットになります。
こちらの記事では以下の点について解説していきます。
- 医療費控除の仕組みや対象となる費用について
- 介護サービスの中での医療費控除の対象について
- 医療費控除を申請するための流れについて
医療費控除とは何か?
医療費控除の「控除」とは、税金がかかる金額に対し、決められた金額を差し引くことを意味します。
つまり、税金のかかる金額(課税金額)に対して控除を受ける事ができれば、納税額を下げることが可能です。
それでは、今回の医療費控除とはどのようなものになるのでしょうか。
国税庁の公式サイトによると、医療費控除について以下の説明があります。
- 医療費控除の対象期間
その年の1月1日から12月31日までの1年間
- 医療費控除の対象者
控除対象者(納税者本人)及び対象者と生計を同一にする配偶者やその他の親族
- 対象税目(控除が適応される税金)
所得税
- 控除内容
1年間で支払った医療費が一定額を超えた場合、その金額を元に計算された医療費控除の対象となる金額の所得控除を受ける
一般的な医療費控除とはこのような概要になります。では、どのようなものが医療費としての取り扱いになるのか、対象になる医療費については次より説明していきます。
対象になる医用費は?
医療費控除の対象となる医療費は以下の表のとおりです。
医療費控除の対象 | 控除対象となるものの例 | 控除対象とならないものの例 |
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医薬品の購入費 |
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以上の専門家の施術代や治療費及び保健指導の対価
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上記の専門スタッフによる療養上の世話 |
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上記の場所へ収容されるための人的役務の提供 |
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このように控除対象となるもの、ならないものがあることがわかります。またこの表の中に、介護施設に関する医療費控除の対象部分が記載されています。
それは以下の部分です。
- 介護保険制度の下で提供される一定の施設や居宅サービスなどの対価
この一定の施設や居宅サービスはどのようなものなのか、次の項目でさらに詳細に解説していきます。
医療費控除の対象になる介護サービスは?
医療費控除の対象となる介護サービスについて解説していきます。施設サービスや居宅サービスについては、種類が多岐に渡り幅も広いため、ここでは施設と居宅サービスを分けて解説したいと思います。
施設サービスの医療費控除について
施設サービスについては以下の通りが医療費控除の対象となります。
介護サービスの種別 | 施設名 | 対象になるものの例 | 対象にならないものの例 |
施設 | 指定介護老人福祉施設
指定地域密着型介護老人福祉施設 |
介護費や食費及び居住費として支払った額の2分の1に相当する全額 | 日常生活費
特別なサービス費用 |
施設 | 介護老人保健施設
指定介護療養型医療施設 介護医療院 |
施設サービスの対価として介護費や食費及び居住費として支払った額 |
指定介護老人福祉施設や指定地域密着型介護老人福祉施設で用いられている【指定】とは、一般的な介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)のうち、都道府県知事より指定を受けた施設のことです。
また、指定地域密着型介護老人福祉施設は上記の指定介護老人福祉施設のうち入居定員が30名未満の指定を受けた上で、施設サービスの提供をしています。地域に根差した施設として、地域と交流を盛んに行いながら施設運営を行っています。
居宅サービスの医療費控除について
居宅介護サービスの医療費控除に関しての説明は3つに分かれます。
- サービスを利用することで医療費控除の対象となる居宅サービス
- 1で説明したサービスと併用して利用する場合のみ医療費控除の対象となる居宅サービス
- 医療費控除の対象とならない居宅サービス
サービスの種類が多く、内容も多岐に渡るため分かりやすく順を追って説明をしていきます。
- サービスを利用することで医療費控除の対象となる居宅サービス
サービス名 | サービス内容 |
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入居者の健康管理や内服の管理を継続的または予防目的で実施し、場合によっては医療的ケアを行う。 |
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自宅で心身機能の維持や向上を目指したリハビリテーションを専門スタッフによって行う。 |
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介護予防目的及び心身機能の維持や向上を目指したリハビリテーションを施設内で定期的に通ってサービスを受ける。 |
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予防目的を含め、介護老人保健施設や療養病床を持つ病院などが実施。
ショートステイと呼ばれており、看護や医学的な管理の下で日常的な介護やリハビリなどを含めた日常生活の世話を受けられる。 |
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決まった時間の訪問サービスと体調不良などで対応が必要になった場合に随時駆けつけてくれる24時間体制の訪問介護看護サービス。
医療費控除対象になるためには、一体型の事業所でかつ、訪問看護を利用する場合のみ。 |
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上記の居宅サービスを組み合わせて提供されるものであり、生活援助中心型の訪問介護は対象に入りません。 |
以上がサービスを利用すると医療費控除の対象となる居宅サービスになります。
基本的に医療面での関わりがあるサービスは医療費控除の対象となる場合が多く、日常生活援助など介助面のみに関する場合だと対象にならないこともあります。
2.1で説明したサービスと併用して、医療費控除の対象となる居宅サービス
先ほど1で説明した居宅サービスは、そのサービスを使用するだけで医療費控除の対象となります。しかし、これから説明する居宅サービスは1と併用しなければ、医療費控除の対象とならないため、注意が必要となります。
サービス名 | サービス内容 |
訪問介護
夜間対応型訪問介護 介護予防訪問介護 |
入居者の自宅に日中及び夜間帯に訪問し、排せつなど身体介助を行う。
生活援助のみのサービス利用の場合は医療費控除対象外。 |
介護予防訪問入浴介護
訪問入浴介護 |
自宅に浴槽を運び、訪問した介護スタッフや看護スタッフにより入浴介助を受けることができる。 |
介護予防認知症対応型通所介護
認知症対応型通所介護 介護予防通所介護 地域密着型通所介護 通所介護 |
予防目的の認知症に特化したデイサービスや通常のデイサービスは、余暇活動や趣味活動を施設へ通って実施する。 |
介護予防小規模多機能型居宅介護
小規模多機能型居宅介護 |
一つの施設で利用者の自宅へ【訪問サービス】【通所サービス】【宿泊サービス】の3つを複合的に利用することができる。 |
介護予防短期入所生活介護
短期入所生活介護 |
ショートステイサービスと呼ばれており、老人短期入所専門の施設や特別養護老人ホームである介護老人福祉施設が提供するサービス。
日常生活の介護などの世話を受ける事ができる。 |
併用することで医療費控除の対象となりますが、実際にどこまでが医療費控除の対象となるのかについては、介護支援計画書(ケアプラン)を実際に立ててもらい、そのサービスに基づいて医療費控除の対象化を確認した方がいいでしょう。
3.サービスを利用しても医療費控除の対象とならない居宅サービス
単独でサービスの利用及び、併用することで医療費控除の対象になる事業所も多くあります。ただし、併用しても医療費控除の対象にならないサービスもあります。
サービス名 | 対象外となるサービス内容 |
訪問介護 | 入居者の自宅へ訪問し生活援助を行うサービス。 |
認知症対応型共同生活介護
介護予防認知症対応型共同生活介護 |
グループホームと呼ばれる認知症専門の介護施設。
介護予防目的で入居できるが、認知症と診断された方が基本的には入居対象となる。 |
特定施設入居者生活介護
地域密着型特定施設入居者生活介護 |
有料老人ホームなど民間が運営する介護施設。 |
基本的に医療費控除の対象にならない場合とは、生活支援に関わる部分となります。医療面や介護面などが関与していないサービスの場合、医療費控除の対象にならないことが多いです。
医療費控除の申請方法は?
医療費控除を受けるには、確定申告を行う必要があります。その際の申請手順は、以下の通りです。
- 控除の対象となるその年の1月1日から12月31日の1年間に支払った医療費が、控除の対象になるのか領収書をもとに確認
- 医療費控除の計算をする
- 確定申告書と医療費控除の明細書を作成する
- 確定申告書を医療費控除の明細書を税務署に提出
それぞれ解説をしていきます。
1.医療費控除の対象
医療費控除の対象は以下2つに分かれます。
- 総所得金額が200万円以上の方
医療費の総額が10万円以上
- 総所得金額が200万円以下の方
所得の5%にあたる金額
それぞれこのような基準で医療費控除の対象となります。総所得金額は一般的な手取り額ではなく、総収入から必要経費を差し引いた金額になります。
自営業の方はその年により収入の変動も大きいため、確定申告の際に改めて算出することになります。
会社員としてのみで収入を得ている場合は、総所得金額は年間の合計収入から給与所得控除を差し引いた金額を指します。
会社員の場合は国税庁ホームページにも記載されている以下の給与所得控除早見表を用いると、計算する必要がなく総所得金額を割り出すことができます
2.医療費控除の計算方法
医療費控除の計算方法は、以下の通りです。
医療費控除額(上限200万円)=医療費(掛かった費用の総額ー保険金などで受け取った金額)ー10万円(総所得金額が200万円以下の方は総所得金額の5%)
上記の計算方法で算出された医療費控除額に対して、自分の所得金額と照らし合わせて、出た税率をかけて出た金額が還付金になります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000 |
引用:No.2260 所得税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
3.確定申告書と医療費控除の明細書を作成する
平成29年度の確定申告より、「医療費控除の明細書」の提出が必要となった代わりに、医療費の領収書の添付、提示は必要なくなりました。そのため、確定申告書とは別に、この医療費控除の明細書の作成が必要になります。
確定申告書と医療費控除の明細書は、国税庁のホームページにある確定申告書作成コーナーから作成することができます。
また、基本的な領収書の添付や提示は必要ないですが、5年間は領収書の保管必須となります。
場合によっては提示が必要となる物もあるため、随時確認するようにしましょう。
4.確定申告と医療費控除の明細を税務署へ提出
確定申告の申告時期は毎年2月16日から3月15日までの期間になります。申告してからおおむね1カ月から2カ月で還付金の振込や、受け取りが行われます。
医療費控除で困ったら専門の方に相談しよう
医療費控除についてだけではなく、税金については知識を必要とする場面が多くあります。そんな時は、税務署の窓口で確定申告の相談、また電話での相談を行うといいでしょう。専門家によるアドバイスをもとに、間違いのない申告書の作成や、どのような場合に医療費の控除対象となるのかを改めて確認することができます。
このように、相談窓口をうまく活用しながら正確な申告書の作成を行うようにしてください。
まとめ
医療費控除を活用できれば、税金の還付を受けることができ節税が期待できます。細かい計算や、確認を行うのは手間に感じるかもしれませんが、介護生活は年単位になることが多く、資金面に関しても慎重になる必要があります。
医療費控除の対象となる部分の利用料を一定額支払っている場合、医療費控除の対象になる可能性はかなり高いため、領収書や明細書などの書類は必ず取っておくようにしましょう。
うまく節税ができれば、利用料の負担も軽減され、より良い介護生活を送る事ができるかと思います。不明な点は専門家に相談し、確実な手続きを行うように心がけましょう。