老人ホーム入居時は保証人が必要?頼めない場合の対処法も合わせて解説

「保証人」という言葉を聞くと、「お金の支払いを背負わされるのではないか」「面倒なことに巻き込まれるのではないか」と、身構えてしまうものです。

そのため、お願いする側にとっては、頼みづらいと感じることもあるのではないでしょうか。

この記事では、老人ホームへ入居する際に「保証人」が必要な理由や、どのような役割を求められ、どこまでの責任を負うことになるのかを解説します。

頼めない場合の対処法についても解説していますので、保証人が必要となった際の参考にしてくださいね。

老人ホーム入居時の保証人や身元保証人は必要なのか

公益財団法人成年後見センター・リーガルサポートの「病院・施設等における身元保証等に関する実態調査報告書」(2015年)では、施設が91.3%、病院は95.9%が身元保証人を求めています。

9割を超える施設が求めているということは、老人ホームの入居時に身元保証人は必須なのでしょうか?

介護施設等に関する法令には、身元保証人を求める規定はなく、各施設の基準省令において、正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできません。

また、身元保証人がいないことのみを理由に入所を拒むことや、退所を求めるといった不適切な取扱を行うことのないよう、都道府県等に対して、適切に指導・監督を行うよう国も指導しています。

しかし、拒否してはいけないことを知らない、あるいは安定した経営のためのリスク回避策と考えているなど、保証人がいないことを理由に入居を断る施設が少なくないのが実情です。

保証人の役割とは

施設は、入居者の「意思決定」の意向に沿ったサービスの提供を行います。

そのため、認知症などによる判断力低下のために、入居者が自分で意思決定を行うことができなくなった場合、入居者本人の代わりに意思決定を行うことが保証人の役割です。

また、入居費用が払えないなどの債務に関わる保証や、亡くなった時の手続き、身柄引き取りも担います。

施設が求める、主な保証人の役割は以下の5つです。

①財産管理に関すること

  • 施設利用料の支払い
  • 滞納時の保証
  • 損害賠償の支払い
  • 日常的な金銭管理

②契約・サービス提供に関すること

  • サービス利用計画(ケアプラン)等のサービス提供内容に関する同意や相談
  • 施設内で身体拘束が必要になった場合の同意

③医療に関すること

本人への影響の大きい、以下の医療行為への同意

  • 入院
  • 手術
  • 延命治療

老人ホームでは、医療に関する同意などについての判断の責任をとれません。

また、急変により救急搬送された場合、施設の職員が付き添うことがありますが、入院の手続きなどは施設の職員は行えません。

そのため、遠方であっても、保証人はできるだけ早く駆けつける必要があります。

④退所時に関すること

  • 本人存命中の退所(退去)の際の居室の明け渡し
  • 居室の原状回復義務の履行

⑤死後事務に関すること

  • 葬儀(身柄引き受け)
  • 退去時の清算や手続き、私物の引き取り
  • 死亡に関わる手続き

保証人の条件は何か

保証人は、金銭の保証や生命に関わる判断を求められるため、一般的には配偶者や子、親族に頼むことがほとんどです。

ただし、配偶者や兄弟などが高齢のために支払能力や判断能力がない場合、保証人とは認められません。

つまり、役割に対する責任を負えるかどうかが条件となります。

老人ホームが保証人を求める場合、さまざまなトラブルを避けるために、原則親族としているところが多いです。

老人ホーム入居後に保証人変更も可能

保証人が責務を果たせない状況になった場合、老人ホームに入居した後であっても変更できます。

保証人が亡くなる、あるいは入院や収入の減少などによって、役割を果たすことが困難になった時は、すみやかに施設へ相談しましょう。

また、新たに保証人を立てる際は、保証人契約を結ぶための書類の提出が必要です。

保証人は何人必要か?

多くの施設が保証人は1人としていますが、「身元保証人」と「身元引受人」をそれぞれ別に立てることを求める施設もあります。

施設によっては、この2つを同じ意味で捉えている場合もあるため、責務について確認しておきましょう。

身元保証人
(連帯保証人)
・入居費用を滞納した場合の支払い
・けがやトラブルの連絡
・入院・退院時の手続き
身元引受人 ・亡くなった際の身柄引き受け
・退去時の清算や手続き、私物の引き取り
・死亡に関わる手続き

どうしても保証人を立てられない時の対応策


配偶者や兄弟に頼んだ場合、支払能力や判断能力の有無により、保証人と認められないことがあります。

保証人としての条件を満たす親族や、適当な友人や知人もいない場合、対応策は以下の3つになります。

①保証人不要の老人ホームを探す

保証人を必要としない老人ホームは、2.7%と少ないですが存在します。

その場合の施設側の対応は、「成年後見制度の申請をしていただく」が74.4%、「市区町村に相談する」が55.0%、「身元保証会社や弁護士、または司法書士などの専門職と契約していただく」は、合わせて30.5%でした。

出典:みずほ情報総研株式会社 介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業 報告書 平成 30 年 3 月 みずほ情報総研

②成年後見制度を利用する

法定後見人は、どのような保護や支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任します。

後見人は以下より複数人を選ぶことも可能です。

  • 本人の親族
  • 法律や福祉の専門家その他の第三者
  • 福祉関係の公益法人、その他の法人
本人の判断能力 選任者 死後の処理 月額費用(目安)
法定後見人制度 家庭裁判所 2~9万円
任意後見人制度 本人 1~3万円

成年後見人に特定の人を希望していた場合であっても、家庭裁判所が希望どおりの人を成年後見人に選任するとは限りません。

希望に沿わない人が成年後見人に選任された場合であっても、そのことを理由に不服申立てをすることはできないため注意が必要です。

また、成年後見制度は途中で契約を終了することができないため、一度契約をすると生涯に渡って制度を利用することになります。

成年後見人の役割

法務省が「法定後見制度について」のQ&Aで以下のような事例を紹介していますので、参考にしてください。

Q12:親族以外の第三者が成年後見人に選任された事例を教えてください。
○親族以外の第三者が成年後見人に選任された事例
ア 本人の状況:統合失調症
イ 申立人:叔母
ウ 成年後見人:司法書士
エ 成年後見監督人:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート

オ 概要
本人は20年前に統合失調症を発症し、15年前から入院していますが、徐々に知的能力が低下しています。また、障害認定1級を受け障害年金から医療費が支出されています。本人は母一人子一人でしたが、母が半年前に死亡したため、親族は母方叔母がいるのみです。亡母が残した自宅やアパートを相続し、その管理を行う必要があるため、母方叔母は後見開始の審判の申立てを行いました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、母方叔母は、遠方に居住していることから成年後見人になることは困難であり、主たる後見事務は不動産の登記手続とその管理であることから、司法書士が成年後見人に選任され、併せて公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが成年後見監督人に選任されました。

ア 本人の状況:重度の知的障害
イ 申立人 母
ウ 成年後見人:社会福祉士

エ 概要
本人は、一人っ子で生来の重度の知的障害があり、長年母と暮らしており、母は本人の障害年金を事実上受領し、本人の世話をしていました。ところが、母が脳卒中で倒れて半身不随となり回復する見込みがなくなったことから、本人を施設に入所させる必要が生じました。
そこで本人の財産管理と身上監護に関する事務を第三者に委ねるために後見開始の審判を申し立てました。

家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、本人の財産と将来相続すべき財産はわずかであり、主たる後見事務は、本人が今後どのような施設で生活することが適切かといった身上監護の面にあることから、社会福祉士が成年後見人に選任されました。

Q13:複数の成年後見人が選任された事例を教えてください。
○複数の成年後見人が選任された事例
ア 本人の状況:重度の認知症の症状
イ 申立人:長男
ウ 成年後見人:申立人と本人の二女

エ 概要
本人は夫を亡くした後、一人暮らしをしてきましたが、約10年前から徐々に認知症の症状が現れ、3か月前から入院しています。最近では見舞いに訪れた申立人を亡夫と間違えるほど症状は重くなる一方です。本人の入院費用の支払に充てるため、本人の預貯金を払い戻す必要があり、後見開始の審判が申し立てられました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始されました。そして、近隣に住んでいる長男と二女が、本人が入院する前に共同して身のまわりの世話を行っていたことから、長男と二女が成年後見人に選任され、特に事務分担は定められませんでした。

ア 本人の状況:くも膜下出血による植物状態
イ 申立人:妻
ウ 成年後見人:申立人と弁護士

エ 概要
2年前に本人はくも膜下出血で倒れ意識が戻りません。妻は病弱ながら夫の治療費の支払いや身のまわりのことを何とかこなしていました。しかし、本人の父が亡くなり、遺産分割協議の必要が生じたため、後見開始の審判を申し立てました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始されました。そして,妻は,子どもと離れて暮らしており、親族にも頼る者がいないため,遺産分割協議や夫の財産管理を一人で行うことに不安があったことから、妻と弁護士が成年後見人に選任され、妻が夫の身上監護に関する事務を担当し、弁護士が遺産分割協議や財産管理に関する事務を担当することになりました。

Q14:成年後見の申立てをする方がいない場合は、どうすればよいのでしょうか?
身寄りがないなどの理由で、申立てをする方がいない認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者の方の保護・支援を図るため、市町村長等に法定後見(後見・保佐・補助)の開始の審判の申立権が与えられています。

Q15:市町村長が後見開始の審判の申立てを行った事例を教えてください。
○市町村長が後見開始の審判を申し立てた事例
ア 本人の状況:知的障害
イ 申立人:町長
ウ 成年後見人:司法書士

エ 概要
本人には重度の知的障害があり、現在は特別養護老人ホームに入所しています。本人は、長年障害年金を受け取ってきたことから多額の預貯金があり、その管理をする必要があるとともに、介護保険制度の施行にともない、特別養護老人ホームの入所手続きを措置から契約へ変更する必要があります。本人にはすでに身寄りがなく、本人との契約締結が難しいことから、町長が知的障害者福祉法の規定に基づき、後見開始の審判の申立てをしました。

家庭裁判所の審理の結果、本人について後見が開始され、司法書士が成年後見人に選任されました。
その結果、成年後見人は介護保険契約を締結し、これに基づき、特別養護老人ホーム入所契約のほか、各種介護サービスについて契約を締結し、本人はさまざまなサービスを受けられるようになりました。

(注)最高裁判所「成年後見関係事件の概況」から

出典:法務省 Q3~Q15 「法定後見制度について」

③保証会社を利用する

保証人がどうしても見つからない場合、保証会社を利用する方法もあります。

以下は、サービス内容と具体例です。

サービス サービス内容 具体例
日常生活サービス 日常生活において不安に感じる場面でのサポート ・受診や買い物などの付き添い
・ケアプラン作成時の立会い
・成年後見人の申請(認知症時)
・各所(親族など)への相談
入院時サービス ケガや病気などで入院することになった場合のサポート ・入院時の手続き代行
・手術の立会い
・日用品などの購入や荷物の持参
・外出時の付き添い
介護時サービス 介護サービスの利用や、介護施設の入居時のサポート ・身元保証や手続きの代行
・福祉・病院関係者との協議
・病院受診や買い物への同行
・施設入居にともなう住所変更手続き
緊急時サービス 24時間365日の緊急対応 ・自宅にいる時や出かけ先など、どこからでも対応可能
・事前指示書の開示等
連絡代行サービス 連絡代行 事前指示書をもとに家族や知人へ連絡
葬儀サービス 家族に代わり葬儀を行う ・親族・友人への連絡
・喪主代行
・法要
納骨サービス 葬儀のあとの納骨や散骨を行う ・希望の方法による納骨や散骨
・供養など
行政手続きなど代行サービス 行政手続きなど代行 ・死亡届の提出、年金の停止、保険証の返還
・電気・水道・ガスの解約、携帯電話の契約解除
・家賃、医療費、入院費、福祉施設利用料など各種清算
遺品整理サービス 遺品整理代行 家財道具や生活用品の処分・引き取り
相続サービス 相続手続き ・遺言執行者指名の受託
・意向に沿った相続
公正証書作成サービス 公正証書の作成代行 ・任意後見人
・死後事務委任
・遺言書

サービスは、契約した分だけ費用がかかります。

数百万円かかることもあるため、必要なサービスは何かを十分に検討して契約することが重要です。

また、2〜3社で見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。

保証会社へ依頼することのメリット・デメリット

次に、平成30年3月に、みずほ情報総研株式会社が「介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業」について行ったアンケートを紹介します。

①法人(身元保証会社・身元保証団体)または専門職(弁護士・司法書士等)の「身元引受人/身元保証人等」を特に有効に活用できた事例

「成年後見人制度」を活用した事例が多く挙げられ、財産等の処分が絡むと「弁護士などの専門職」が重要との回答でした。

成年後見人の主な役割は、金銭管理、相談、身の回りの必要な支援です。

以下は回答の内容です。

  • 身寄りがない方の入居であったが、後見人がいたので、いろいろなことが相談でき、看取りも行えた。現在も一人いるが、安心できる。(介護老人福祉施設)
  • 身元引受人が利用者本人の年金を使いこみ、利用料の支払いがないため、弁護士に相談し、手続きを経て、後見人となっていただいた。 (軽費老人ホーム)
  • 入所者のADLの低下により、施設を退所することになった際、次の施設で保証人を求められた。市長申し立てで、成年後見人が決定後に施設入所ができた。(介護老人保健施設)
  • 利用者さんがご家族に虐待を受けているケースでは、後見人制度を活用することで、利用料の支払い、ケアプランの同意がスムーズに行えて、ご本人の生活が守られていると思います。(介護老人福祉施設)
  • 任意後見人制度を勧める場合がある。(社会福祉協議会)
  • 認知症と診断され、財産管理が困難であり、家族管理ができない場合、NPO法人 リーガルサポート支部に相談することがある。 (養護老人ホーム)
  • 親族がいない場合や協力が得られない場合については、入所申請の段階で成年後見制度の紹介を行い、事前にケアマネジャー等と相談し、進めている。 (介護療養型医療施設)
  • 弁護士と社会福祉士からなる成年後見センターのような法人をつくり、身上管理と財産管理を分担で受諾されていた方がおられる。各々の分野においての専門家であったため、支援相談員として、非常に心強かった。 (養護老人ホーム)
  • 老健のため、医療行為も含め、家族の代理として専門職の後見人がついているケースがある。本来、成年後見人に同意権はないが、利用者に必要(有益であるか)なことかを判断して動いてくれるので助かっている。 (介護老人保健施設)
  • 後見人から親族確認が行えた。後見人がついたことで、支払いができない状態から、金銭管理、生活保護の手続きが行え、生活が安定した。 (養護老人ホーム)

②法人(身元保証会社・身元保証団体)または専門職(弁護士・司法書士等)の「身元引受人/身元保証人等」について困ってしまった(後に困りそうな)事例

困ってしまった事例においては、「医療同意」の部分が多く挙げられています。

また、専門職に依頼した場合、取り扱いができる範囲が異なることも挙げられており「成年後見人」の責任範囲は生前までなので、死後の取扱いは責任外になることが懸念されていました。

入居高齢者が独り身だと思っても、後から遺族が出てきてトラブルとなる事例もあるようです。

以下は回答の内容です。

  • ご本人への影響の大きい医療行為(入院、手術、延命治療等)への同意が得られないケースが多い。 (有料老人ホーム)
  • 医療行為が必要になった際の夜間での緊急対応ができないため、家族が亡くなった際の命にかかわる救急対応は事前に対応を決めておかないと難しい。(介護老人福祉施設)
  • 成年後見等の手続きが2か月くらいかかり、入居に時間がかかった。(介護老人福祉施設)
  • 弁護士の方などは、忙しいこともあり、なかなか面会などができない。(有料老人ホーム)
  • 家庭裁判所で指名された方が、本人の意向にそわない場合、本人からのクレームがある。(養護老人ホーム)
  • 重度の認知症がある人に対して、延命、看取り等の意思決定が後見人には決めれない(介護老人福祉施設)
  • 死後の事務手続きや葬儀関係について、本人死亡後は後見人解除になるため、誰がやるのか不安。(介護老人福祉施設)
  • 仕方がないとは思うが、個人差が大きい。毎月面会に来られる方もいれば、連絡しても事務職の方の対応のみという方がある。(介護老人福祉施設)
  • 費用が高いので勧めにくい。法人、専門職によっては動きが遅い。もっと早い時期にこういった制度を知っていれば活用できたと思う。(有料老人ホーム)
  • 弁護士・司法書士の担当は、財産管理という側面が強く、どうしても本人のサービス利用にあたっての相談がしづらいという面がある。(介護老人保健施設)
  • 利用者の生存までの関わりだからと言われ、死去された後の葬儀等に関することをできないと言われる司法書士の方もおられ、不安である。 (介護老人福祉施設)

まとめ

老人ホームへ入居する際に「保証人」が必要な理由や、どのような役割を求められ、どこまでの責任を負うことになるのかを解説しました。

保証人を立てることを求める施設が多いですが、それにより施設側だけではなく、入居者本人も守られているのです。

認知症などで、自分で意思決定をすることが困難になる前に、自分の人生プランを保証人へ伝えておくことは、とても重要です。

保証人を「信頼のおけるパートナー」と言えるような関係性を築き、安心できる老後を送ってくださいね。

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