相続税における不動産に関する特例の中でも、節税効果の高いお得な特例が「小規模宅地等の特例」です。
相続税を払うことが困難であるがために、相続人が引き継ぐはずの土地や、事業をする土地を手放してしまうことがないようにつくられました。
また、老人ホームを”終の棲家”として選択される人が増えたことにより、2014年(平成26年)1月1日以降の相続より、老人ホームに被相続人が入所していた場合でも適用できるように、税制改正が行われています。
あなたは、この特例を使うことができるのか?
どのくらいメリットがあるのか?
申請方法は?
ここでは、このような疑問を解消するべく、重要なポイントを徹底解説していきます。
小規模宅地の特例を受けられる条件は?
「小規模宅地等の特例」とは、小規模な宅地について、一定の要件を満たす人が相続したときに、その宅地の評価額を最大で80%も減額できる特例です。
適用される土地の条件
適用される土地 | 上限面積 | 減額割合 |
住んでいた土地
(特定居住用宅地等) |
(※)330平方メートル | 80% |
事業をしていた土地
(特定事業用宅地等) |
400平方メートル | 80% |
貸していた土地
(貸付事業用宅地等) |
200平方メートル | 50% |
※相続する土地の面積が、上限の330平方メートルを超えていても、330平方メートルまでについては適用することができます。
【例:相続税評価額3000万円で敷地面積400平方メートルの場合】
超過分の70平方メートルについては特例が使えないため、以下の計算式となります。
3000万円÷400㎡×330㎡×80%=1980万円
3000万円-1980万円=1020万円
相続税評価額1020万円
【分譲マンションの場合】
マンションの売買契約書・権利証または土地の登記簿謄本(法務局で取得できます)に明記されている、敷地権割合を参考にして計算します。
特例を使える人
この特例を使うことができる「一定の要件を満たす人」とは、以下の4つになります。
①配偶者
配偶者は無条件で適用されるため、別居をしていても適用となります。
また、以下の②~④と違って、被相続人が亡くなってから10ヶ月未満で土地を売却しても構いません。
②一緒に住んでいた同居親族
6親等内の血族と3親等内の姻族が同居親族となります。
住民票を移していなくても、同居をしていた事実があれば、短期間であっても適用されます。
但し、税務調査は厳しく徹底的に行われるため、実態が伴っていることが重要となります。
住民票だけを異動して、実際は同居していない場合、さまざまな観点から調査を受けるため、適用されることは難しいでしょう。
また、特例を適用するためには、相続後も売却することなく、10ヶ月以上住み続ける必要があるため、注意が必要です。
③別居で3年以上持ち家に住んでいない親族(家なき子)
配偶者も同居している親族もいない場合に限り、相続開始前の3年以上持ち家に住んでいない親族は、通称「家なき子」として適用となります。
賃貸のアパートや、社宅または寮に住んでいる場合です。
この際、以下の名義による賃貸住宅では適用されません。
- 配偶者
- 3親等以内の親族
- 親族が経営する法人が所有している
- 自分名義の持ち家を売却した購入者が所有している
ただし、自分の持ち家があっても誰かに貸していれば適用となります。
被相続人が「独り身」かつ「一人暮らし」の場合にしか適用されないため、①の配偶者や②の同居親族が相続を放棄していても、「家なき子」は適用にはなりません。
また、「家なき子」の場合、相続後に居住する必要はありませんが、売却することなく10ヶ月以上所有しておく必要があります。
つまり、相続後すぐに、賃貸物件として貸し付けることもできます。
④遺言書により相続した親族
配偶者や同居親族がいても、遺言書により6親等内の血族または3親等内の姻族が相続した場合、適用となります。
例えば、被相続人が遺言書により孫に遺贈した場合、この特例は適用されます。
ただし、法定相続人である孫の親がまだ健在であれば、孫は2割加算された相続税を支払うことになるので、注意が必要です。
老人ホームに入居していた場合
老人ホーム入居中に被相続人が亡くなった場合でも、以下の2つの要件を満たしていれば対象となります。
①被相続人が要支援1、2または要介護1~5の認定を受けている
②入居していた老人ホームの種類が下記に該当している
- 認知症対応型老人共同生活援助事業(認知症グループホーム)
- 養護老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護医療院または介護療養型医療施設
- 軽費老人ホーム
- 介護付き有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅(老人福祉法の指導監督対象となっている施設)
- 障害者支援施設
- 共同生活援助(障害者グループホーム)
相続前の自宅の使い方についても注意が必要なため、次の章で詳しく解説します。
相続前の自宅の使い方次第では特例が使えなくなることもある
老人ホームに入居していた場合、相続前の自宅の使い方に関して、以下の要件を満たす必要があります。
- 自宅が空き家になっている
- 老人ホーム入居前から親族が住んでいる
減額率が下がるパターン
親族以外の人に自宅を貸し付けている場合、減額率が下がってしまいます。
この場合、「貸付事業用宅地」が適用となり、200平方メートルまでの土地に対して、50%の評価減が可能です。
世間相場である適正な賃料で貸し付けていることや、相続税の申告期限まで貸し続けている必要がありますが、貸付期間の制限はありません。
特例が使えなくなるパターン
老人ホーム入居前から住んでいる場合は入居後も住み続けて構いませんが、老人ホーム入居後、新たに親族が住んでしまうと特例が使えません。
相続税申告の際に税務署に出さなければならない書類がある
相続税申告の際に税務署に出さなければならない書類は以下になります。
- 申告書第11・11の2表の付表1
- 申告書第11・11の2表の付表1(別表)
- 遺産分割協議書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
- あれば遺言書の写し
【老人ホームに入居していた場合】
- 相続開始の日以後に作成された被相続人の戸籍の附票の写し
- 介護保険の被保険者証、障害福祉サービス受給者証の写しなど
- 老人ホームの入居契約書の写しなど
相続時点で要支援または要介護認定を受けていたこと、老人福祉法の指導監督の対象となる施設に入居していたことを証明する必要があります。
「都道府県」に届け出をしていない無許可の老人ホームは適用にはならないため、入居していた老人ホームへ、直接問い合わせておくと良いでしょう。
また、更新忘れなどで介護保険証などが更新されていない場合、適用とならない可能性がありますので、注意が必要です。
二世帯住宅の場合は?
二世帯住宅の構造には、家の中を行き来できる「非分離型」と行き来できない「完全分離型」の2種類があります。
ここで重要なポイントは、家の構造ではなく「親の住んでいる居住部分」と「子が住んでいる居住部分」の登記をどのようにしているのか、ということです。
別々に登記している「区分所有登記」の場合は対象にはなりません。
ただし、相続人が「配偶者」または配偶者がいない「家なき子」であれば対象になります。
最終的な判断は専門家にも相談しよう
最後に、注意していただきたい重要な点があります。
それは「小規模宅地等の特例」は、申告後の修正を受け付けてもらえないということです。
また、さまざまなパターンがあるため、計算方法も複雑です。
そのため、最終的な判断については、専門家に相談することをおすすめします。
知識不足で損をする可能性がありますので、相続税に関する相談を多く扱っている税理士に相談すると良いでしょう。
まとめ
相続した宅地の評価額を最大で80%も減額できる「小規模宅地等の特例」について解説しました。
この特例を使うためには、これまで解説した、いくつもの要件を満たさなければいけません。
また、原則として相続税の申告期限までに遺産分割を済ませて、税務署に申告書を提出することで適用となります。
相続税の申告期限とは、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
「相続税を払うことが困難だから」と、思い出の地を手放すことにならないように、この記事があなたのお役に立てることを願っています。