認知症による徘徊は、予防や対応が難しく悩まれている方が多いのが現状です。
しかし、適切な対策を行えば、徘徊をある程度予防できるだけでなく、徘徊が起こってしまった場合でも早急に対応をする事が可能となります。
こちらの記事では、徘徊が起こってしまう原因や、対処方法についてご紹介していきます。
ぜひ、最後までご覧ください。
認知症による徘徊とは
認知症による徘徊とは、認知症における行動・心理症状の一つであり、「本人の目的や理由が分からないが、歩き回ったり・動き回ったりしている状態」を指します。
厚生労働省は、徘徊を「歩き回る、車いすで動き回る、床やベッドの上で這い回る等、目的もなく動き回る行動のことである」と定義しています。(引用:厚生労働省「認定調査員テキスト2009改訂版(令和3年4月改訂)」)
具体的には、以下のような状態が当てはまります。
- 常に施設内を歩き回っているが、何が目的なのか分からない
- 自分が住んでいる老人ホームなのに、トイレや自分の部屋が分からなくなりウロウロしている
- 散歩に出たが、帰り道が分からなくなり歩いているうちに行方不明になる
- 気付いたら施設からいなくなっていて、離れた場所で保護される
認知症による徘徊は、想定することが困難なため、単に介護職員が「勝手に行かないでね」「分からなくなったときは教えてね」等と声をかけても防げるものではありません。
また、徘徊によって行方不明になったり、安全確保のために付き添う手間が生じるため、問題視されている症状の一つです。
徘徊する危険性
認知症による徘徊で最も恐れられていることは、徘徊中に転倒して大怪我を負ったり、夏場は熱中症になって倒れたりすることです。
最悪の場合、行方不明の期間が長引き、亡くなった状態で発見されることもあります。
行方不明者に関する対応を管轄している警察庁が毎年公表する「行方不明者の状況」によると、令和3年度1年間の行方不明者79,218人のうち、認知症及びその疑いによるものは17,636人であると公表しています。
割合は全体の22.3%であり、原因・動機別で最も割合が多くなっています。
実際に筆者が体験、また耳にした事のある徘徊による事故には、以下のようなものがあります。
- 夜中に突然、警察から「あなたの母親が自宅から約20km離れたコンビニで保護されました」と連絡がきた。
- グループホームの入居者が気付いたら居なくなっており、空き家の窓ガラスを破って侵入し、寝ている所を発見した。
- 徘徊中に転倒し、左肩を骨折したが、認知症のため手術が出来ず保存治療となった。その結果、肩関節が固まって動かなくなり身体介護が必要となった。
- 認知症の自覚症状がないため、治療やサービス利用を受けないまま、ある日突然、遠く離れた地域の海で遺体で発見された。
このように、意図せず引き起こしたトラブルによって、本人が怪我を負ったり、亡くなってしまう危険性があるだけでなく、他人を巻き込んで損害賠償請求をされる事態になる例もあります。
徘徊による危険を回避するためには、まず徘徊が起きる原因や過程をしっかり理解することが重要です。
徘徊が起こってしまう原因は?
どのような事故にも「原因」や「事故が起きた背景」があるのと同じく、認知症による徘徊にも原因や背景があります。
認知症による徘徊は、「心理的原因」「環境的原因」の2つに分けられ、双方の原因からリスクを取り除いていく必要があります。
心理的原因
認知症になると、物忘れが激しくなったり、時間や場所の感覚が分からなくなる場合があります。
このような事が本人の心理的ストレスとなり、焦りや苛立ちを感じ、帰宅願望を誘発したりするため、徘徊の原因となってしまいます。
例えば、物忘れと場所の感覚の喪失によって、今いる場所が自身が入所している老人ホームであったとしても「自分の家じゃない」「(職員の顔を忘れて)知らない人がいる、ここはどこなの?」と感じて不安になってしまうことがあります。
また、長年主婦をしていた方に多い心理的原因に、「夕暮れ症候群」があります。
夕方になると「家に帰ってご飯の支度をしなきゃ」「夫が仕事から帰ってくるから家を空けられない」などと訴え、落ち着かなくなってしまいます。
心理的原因による徘徊のリスクを下げるためには、その方の認知症状や訴えの傾向を理解した上でしっかりと寄り添い、安心してもらえるような言葉をかけることが大切になります。
環境的原因
冒頭で、徘徊は認知症の行動・心理症状の一つであるとご紹介しました。
行動・心理症状は、認知症による記憶障害や時間・場所・人間関係などの感覚が分からなくなることにより、周囲の環境に対応出来ず症状として現れます。
そのため、認知症の人が安心して過ごせない周囲の環境に課題があるのではないか、という考え方です。
この「環境」という考え方には、建物の構造が分かりづらかったり、本人が騒音と感じてストレスになるハード面(物理的環境)の原因だけでなく、認知症の方に対応する支援者の対応や心構えといったソフト面(人的環境)の問題も含まれます。
徘徊の要因になる環境的原因について、ハード面とソフト面からみたよくある問題点の例を以下の表に整理しました。
物理的な環境的原因の例 | 人的な環境的原因の例 |
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環境的原因については、支援者側の心構えや対応方法によって解決することが可能です。
徘徊が起きる理由は、その認知症患者が置かれている状況や本人の性格やこれまでの過ごし方によっても異なります。
徘徊を引き起こす環境を作らないようにするための第一歩として、徘徊に至る原因を探り、本人の立場になって考えることです。
認知症による徘徊に対する対策
認知症の高齢者と向き合う介護職員は、日常的に入居者に対する気配りや目配りをしなければなりません。
徘徊が原因で自宅で過ごせなくなり、老人ホームに入所せざるを得なくなった方であれば、なおさら注意が必要です。
介護職員の間でチームとして、認知症による徘徊の対応をするためには、以下の2つのポイントを意識することが重要です。
- ストレスを溜めない
- 従業員がしっかり確認を行う
認知症による徘徊と老人ホームの介護職員がどのように向き合えばよいのかについて、対策方法をご紹介していきます。
ストレスを溜めない
1つめの対策は、介護職員自身がストレスを溜めないようにすることです。
なぜなら、認知症による徘徊への対応は、体力的にも精神的にもかなりの労力が必要となるためです。
徘徊を防ぐためには、本人の機嫌を損ねないよう、本人の訴えを寄り添って傾聴したり、、帰宅願望に意識が向かないように話題を工夫したりと、心理的な面での配慮や機転を聞かせた対応が必要になります。
また、常に徘徊リスクがある方の所在確認の徹底、死角を作らないようにするなど職員間の連携も重要になります。
徘徊が始まってしまうと、無理矢理制止する事は逆効果となるため、本人が満足するまで長時間であっても付き添うことが必要となります。
そのため、徘徊に対応した職員は休憩する時間を長めに設けたり、徘徊対応の当番をローテーションで決めるなどして、負担を分散させることが大切です。
認知症対応に慣れた介護職員でも、徘徊対応は心身共に負担がかかってしまいます。
継続的かつ効果的に徘徊対策ができるように、日頃からストレスケアを図ることが非常に重要です。
従業員がしっかり確認する
2つめの対策は、介護職員が日頃からしっかり入居者の状態を確認することです。
日頃から介護職員同士が連携して見守りや所在確認をする事で、徘徊による行方不明や死亡事故といった最悪の事態を防ぐことができるからです。
例えば、入浴介助で職員が手薄になる時間は、必ず所在確認をする担当職員をホール(デイルーム)に残しておくことなどが考えられます。
また、その日のリーダー職員は、他の介護職員の行動や現在地を把握して適切に指示を行い、死角を作らないことや、一人一人が視野を広くとって見守ることを意識付けるように促す必要があります。
このような対応は、単に施設内の介護職員を増やせばいいという問題ではありません。
人員が多いことにより、「誰かしら職員が見ているだろう」と人任せな行動をとる人が増えてしまう懸念もあります。
介護職員それぞれが責任感を持ち、希望的観測で身勝手に行動せずにお互いが声を掛け合いながら、皆で見守るという姿勢が重要になります。
徘徊が起きたとしても冷静に対応しよう
徘徊により入居者が所在不明になっていることに気付いても、焦って自分一人で探しに行ってはいけません。
所在不明になった際に、いち早く発見するためには、一人でも多くの人から捜索を手伝ってもらうことが最も効果的であるためです。
また、あまり知られていないかもしれませんが「一人でも多くの人から捜索を手伝ってもらう」ための様々な取組が各自治体で行われています。
例えば、東京都では「行方不明認知症高齢者等情報共有サイト」というものを開設しており、徘徊による行方不明事案が発覚した際に速やかに近隣自治体へ周知し、情報提供を募るシステムを運用しています。
中には地域包括支援センターが窓口になって「氏名」「顔写真」「特徴」「普段どのように呼ばれているか」などの情報を登録しておくことで、捜索がスムーズになる【見守りSOSネットワーク】や、徘徊リスクのある認知症患者の身の回り品にQRコードを付けておき、発見者が読み込むことで自動的に通報される【どこシル伝言板】のようなサービスもあります。
このような事前登録制の行政サービスを活用することも、冷静な徘徊対応の一助となります。
日頃から入居者の観察を怠らず、リスクに備えて緊急時の対応方法を検討しておくことが、いざという時の冷静な対応に繋がります。
まとめ
ここまで、認知症による徘徊への原因や対応方法について以下の通りご紹介してきました。
- 認知症を原因とした徘徊は、最悪の場合死亡に至ってしまうリスクがある。
- 徘徊の原因には、本人の認知症状に起因する「心理的原因」と、支援者が適切に対応できていないことを示す「環境的原因」がある。
- 認知症による徘徊対策のためには、ストレスを溜めないこと・従業員がしっかり確認することが大切である。
- 徘徊が起きた時は冷静に対応することが大切で、いざという時の事前登録制行政サービスも頼りになるため登録をしておく。
これらの情報が、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。