日本の高齢化社会が進むにつれ、高齢者を受け入れる施設は多様化してきました。従来の老人ホーム以外に、特色を持った「ナーシングホーム」と呼ばれる施設があるのをご存じですか?
「ナーシングホーム」について大事なポイントを押さえて解説していきます。
- ナーシングホームとはどういった場所なのか
- 老人ホームとの違いはなにか
- 従来の老人ホームとナーシングホーム、それぞれの強み
ナーシングホームってどんなとこ
名称だけではどのような施設か想像がつきづらいナーシングホーム。
簡単に解説するとポイントは以下の通りです。
- 「ナーシングホーム」は施設の形態であり、特定の施設を指してはいない
- 日本においては、明確な施設基準はないが各施設が医療面での支援を手厚くし、受け入れられる入居者の対象を広くとっている
- 「ナーシングホーム」は欧米における日常的な介護や医療などを必要とする人のための施設
さらに詳しく説明していきましょう。
1,「ナーシングホーム」とは施設の仕組み
特別養護老人ホームや介護老人保健施設のように、「ナーシングホーム」という言葉は特定の施設を指しているわけではありません。
「ナーシングホーム」とは、医療面でのケアが必要とされる要介護者や重介護者の受け入れを行い、24時間体制でサービスの提供を実施する介護施設です。
治療は必要としないが、日常的に医療的ケアを必要としている方に対し、安心して生活を送れるように施設によっては、介護士よりも看護師を手厚く配置している所もあります。
2,医療的ケアを手厚く受けられる環境
ナーシングホームは介護施設という形態をとりながらも、医療的ケアを受けられるような職員配置をしています。施設によって人員配置や特色は様々ですが、介護士よりも看護師の人員配置を多く設けていたり、入居者に対して医療的ケアを随時行えるように24時間体制で対応できるようにしていたりと配慮されています。
入居する方の体調や心身状態などが悪化し医療依存度が高くなっても、施設を住み替えることなく手厚い医療的ケアが受けられるよう、体制を整えている施設と言えます。
3,「ナーシングホーム」という施設形態は欧米が主流
もともとナーシングホームとは、要介護者や重介護者を対象とした欧米諸国で提供される医療・介護サービスを受けられる介護施設を指しています。
日本では特別養護老人ホームに近い形態の施設となりますが、一番の違いは要介護者以外に障害を患う方の入居も可能としている点です。
障害を持つ方は、必ずしも高齢者とは限りません。
中途障害などにより、心身面で生活に支障が出てケアの必要性が高い方も入居対象となっています。
障害者でも入居できるのがナーシングホーム
ナーシングホームは障害者でも入居できるのが大きな特徴です。その特徴について詳しく説明していきます。
ポイントは以下の2点です
- ナーシングホームの形態をとる介護施設の全てで、障害者を受け入れているわけではない
- 難病や終末期により医療依存度の高い若年層の利用ができる
ひとえに障害といっても細かく分かれており、ナーシングホームにおいてどの障害が対象となるのかさらに掘り下げてみていきたいと思います。
ナーシングホームが対応可能な障害
「障害」は大きく分けると3つあります。精神障害(発達障害を含む)・知的障害・身体障害のなかで、ナーシングホームでは主に鬱などの精神障害を患う方や、難病や事故により体に障害をもち医療行為が必要な方などが対象となります。
現在、厚労省が定めている指定難病は338種類。難病は原因がわかっておらず、なおかつ完治しない疾患のことを指しています。
難病を発症すると若年層でも身体が不自由になり、家族の負担も増えていきます。病気に合わせて医療的なケアが必要となり、在宅介護をしていくとなると家族もその知識を得なければなりません。
このような状況でも対応できるナーシングホームでは、どのような方が入居の対象となるのかも含めて詳しく見ていきたいと思います。
入居の対象となる医療ケアの範囲
全国にあるナーシングホームの特色は施設ごとに異なります。
しかし障害を受け入れる点で、医療依存度の高い障害状態の方でも幅広い対応を可能としています。
しかし特別養護老人ホーム等のように、職員配置や定義が決められているわけではないため、職員配置の人数等はナーシングホームの施設ごとに委ねられています。
ただ、医療面で手厚く対応ができる施設としての特色を持つナーシングホームには、共通点があります。
- 24時間体制で看護師が常駐している
- 施設でできる医療的行為の幅が広い
このような点から介護度が重い高齢者だけではなく、医療依存度の高い障害を持つ方の入居も可能です。
ここでいう障害者とは、難病やガンなどにより医療的なケアが常時必要であり、さらに65歳未満の介護保険非対象者と呼ばれる方です。
では、実際にどのくらい医療体制が異なるのか、次の項目で説明していきます。
老人ホームとナーシングホームは医療体制が違う
老人ホームとナーシングホーム、大きな違いは提供できる医療体制の幅にあります。
表で見て比較してみます。
老人ホーム | 重度要介護者・医療ケア対応型
ナーシングホーム |
|
職員配置 | 看護師は日勤帯のみ
(外部の事業所より派遣の場合もある) 介護士が24時間常駐し、入居者のケアを実施。 |
看護師が24時間常駐で入居者のケアを実施 |
対応可能な疾病 | 医療行為が必要ではない一般的な疾患
代表的な疾患
|
左記の疾患に加えて、医療行為が必要な進行性の難病
|
提供可能な医療的ケア | 医療依存度の高い方の入居は不可になる場合が多い | 医師による処置
医師の指示のもとで実施する処 置
|
表からも分かる通り、ナーシングホームは介護施設としての役割を持ちながらも医療行為を行えます。
上記の処置内容や対応可能な疾患などについては、施設によるところも大きく対応可能な医療提供や疾患はそれぞれ異なります。
看護師をより多く配置し、医療的ケアの専門性を高めながら日常的な介護も担っています。
施設ごとに独自の特色があるため、施設のホームページなどの情報だけではなく、実際に足を運んで見学する必要があります。
ナーシングホームの強み
ナーシングホームと老人ホームは、特性の違いによりそれぞれ特化した部分があります。
ナーシングホームの強みについては以下の点です。
- 医療的ケアに特化した施設形態のため、患者数の少ない進行性の難病であっても受け入れられる可能性がある
- 心身の状態変化が起こって持病が悪化しても施設を変える必要がない
- 療養しながらも、日常生活を楽しみながら送ることができる
強みを一つずつ解説していきます。
自分の病気に合った施設を見つけられる
前述した通り、ナーシングホームは医療ケアに特化した施設形態です。受け入れられる難病の数も多く、入居を希望する方の病気に合った施設を見つけることができるでしょう。
国が定める難病は、原因がわからず治療方法も確立していない病気のため進行してしまう場合が多いです。医師との連携や、また看護師が常駐している等、医療の専門スタッフが随時対応可能なナーシングホームでは、入居する方に合わせたケアができるといえます。
持病が悪化しても継続して医療・介護サービスを受けられる
通常の老人ホームでは、持病の悪化や発病により入院治療を行っても今までのように元気に過ごすことが難しくなるケースがあります。
病気により食べ物が食べられず胃ろうになったり、痰を自分で吐き出せず吸引が必要になったりする可能性があるからです。
しかしナーシングホームであれば、24時間看護師が常駐している職員配置をとっていることが多いため、医師の指示にて行う医療的ケアも継続的に受けられます。
療養しながらも生活を楽しめる
ナーシングホームは、病気の療養をしながら生活を楽しいものにする余暇活動へ参加することもできます。
施設にデイサービスが併設されていて、気軽に通うことができる環境が整えられている施設もあります。
病気療養をしながらもできる範囲で日常生活を楽しむ活動を行うことで、療養生活を前向きに過ごすことができるでしょう。
老人ホームの強み
老人ホームにも日常生活を送る場としての強みがあります。
- 施設数が多く、慣れ親しんだ地域で生活できる
- 施設の入居定員や個室か多床室か、本人の価値観に合わせて選ぶことができる
- 緊急性のある対応が必要になった場合、利用できる施設を見つけやすい
施設数が多く、個々の趣向や価値観に合った施設を探しやすい老人ホームはこちらの3点が主な強みとなります。詳しく解説をしていきましょう。
慣れ親しんだ地域の生活
老人ホームは全国各地にあり、また増加傾向にある老人ホームは、入居者にとって身体が不自由になっても慣れ親しんだ地域での生活を続けることを可能にしてくれます。
思い入れのある自宅を離れて生活する事は入居者にとって不安材料の一つとなりますが、住んでいた地域で継続して生活を送ることができる事で心の安定につながります。老人ホームは地域に根付いた施設を目指している場所が多く、地域交流も盛んです。
施設に入居していても、地域の馴染みある人と継続して交流できるのは老人ホームの強みと言えるでしょう。
施設の設備や形態を選べる
施設の数が多い分、特色や形態も様々です。
個室がいいのか、多床室がいいのか。お風呂は個別で入浴できる環境がいいのかなど、個人の価値観や趣向に合う施設を見つける事が可能です。
また、認知症の専門施設としてのグループホームや身体機能の低下に対して施設内で定期的なリハビリを受けられる介護老人保健施設などがあります。
入居する人が日常生活において、大切にしたいと思っていることを実現できる環境を見つけられるでしょう。
緊急性のある時も利用しやすい
筆者が介護施設で勤務していた際、以下の理由で緊急的な利用の受け入れを行ったことがあります。
- 介護者が高齢で急な病気により入院した
- 要介護者が体調不良により、入院治療が必要ではなくても立ち上がりなどが突然不可能になり専門的なケアが必要になった
こちらの2点は、勤めていた施設でも年に数件はあった事例です。在宅介護をしていて要介護者の状態悪化に家族が対応しきれない場合や、それ以外にも介護者が体調を崩してしまう状況も珍しくありません。それだけ在宅介護は、介護者にとっても大変負担の大きいことです。
緊急性の高いケースであれば、施設数の多い老人ホームを対象にケアマネージャーが対応し受け入れ施設を探すことが可能となります。
一番は要介護者の保護となるため、家族も安心して対応を任せることができるでしょう。
まとめ
ナーシングホームや老人ホームの違いについて説明しました。
一言でまとめると、ナーシングホームは医療特化型の介護施設であり、老人ホームは入居者の日常生活を支える自宅に近い考え方の介護施設といえます。
近年難病と呼ばれる病気は年々増加傾向となっており、年齢関係なく発症をするため、介護も高齢者のためだけのものではなくなってきています。
働き盛りの中で難病を発症し、介護が必要となるケースもあるでしょう。ナーシングホームでは、若年層の受け入れもあり難病を患い障害を持つ方でも適切なケアを受けられるため、家族の負担を軽減する頼れる施設といえるでしょう。
一方老人ホームは、住み慣れた地域にも数多くあり、入居者も家族も落ち着いた環境の中で過ごすことが可能です。
ナーシングホームだけではありませんが、施設によってできることやできないことが異なるため、入居を希望する際は必ず見学をしておくことで、入居後のイメージの違いを防ぐ事ができるでしょう。
それぞれの長所を理解した上で、施設を選び安心した生活を過ごして下さることを願っています。